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トヨタ社長交代、新EV戦略を打ち出せるか[2023.1.30]

トヨタ社長交代、新EV戦略を打ち出せるか

【記事詳細】ダイヤモンドonline

✍️記事要約

✅ トヨタ社長交代、新EV戦略を打ち出せるか
次期社長は重大な決断を下す必要がある

トヨタ自動車の新トップは電気自動車(EV)に関して重大な決断を下す必要がある。

 トヨタは26日、4月1日付けで豊田章男社長が会長となり、現在、高級車ブランド「レクサス」のトップを務める佐藤恒治氏が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任すると発表した。社長の交代は予想外で、現会長の内山田竹志氏が退任を決めたことに伴うものだ。ハイブリッド車「プリウス」の生みの親として知られる内山田氏は、退任の理由について「世代交代」の必要性に触れた。

トヨタが新たな発想を必要とすることは確かだろう。社内からのトップ起用は最善の選択肢ではないかもしれないが、「トヨタ方式」でカルト的な地位を築いた経営文化を誇る同社にとっては、おそらく不可避だった。

 最近までトヨタは、EVへの移行で同業他社より有利な位置につけているように思われた。ハイブリッド技術の先駆者として炭素排出削減やバッテリー開発で先行。まれに見る世界的規模と製造の効率性により、トヨタは巨大な経営資源を有する。新型コロナウイルス流行に伴う半導体不足の初期段階ですら輝きを放ち、2021年に米自動車販売で首位に立った。

にもかかわらず、トヨタは近年、テスラの台頭に対して満足な手を打てなかった。製品をゼロから開発するテスラのアプローチとその創造的破壊の文化は、「継続的改善」を通じて漸進的なイノベーション(技術革新)を実現してきたトヨタの伝統に対する挑戦だ。イーロン・マスク氏の派手な宣伝によって得られる株式市場での優位性も、「語るのではなく、見せる」ことが望ましいと考える企業にとっては問題となる。

 トヨタはテスラの初期投資家だったが、2016年に持ち株を売却した。おそらく他の多くの人と同じように、テスラが失敗すると思ったからだろう。トヨタが再びテスラに真剣に注目するようになったのは、トヨタの「リーン生産方式」のテスラ版とも言える無駄のない製造工程が実現し、収益化の道筋がついてからのようだ。創業者の孫にあたる豊田氏は2021年12月、従来のトヨタの常識を打ち破り、マスク氏並みの演出を駆使した派手なバッテリーEV戦略発表会を開催。開発中の製品を披露するとともに、EVに本腰を入れる姿勢を強調した。

ところが、豊田氏はそれ以降、矛盾するメッセージを送っている。バッテリー生産の拡大や、とりわけ途上国での充電施設整備に絡む難題やコストを踏まえると、世界は今後何年もガソリン車とEVの双方が必要だと主張している。確かに事実だが、微妙な意味合いを含むその発言は、トヨタがまだ確立できていないEV技術の開発にブレーキをかける自己本位の取り組みとの印象も拭えない。トヨタは昨年、同社初の本格EVである多目的スポーツ車(SUV)タイプのEV「bZ4X」で、タイヤが脱落するリスクがあるとして、リコール(回収・無償修理)に追い込まれた。その後の販売再開を巡る状況は静かだ。

 気候変動対策への関心が世界でかつてなく高まる中、日本以外の諸外国政府は豊田氏の訴えを無視している。米政府の新たなEV税控除は、プラグインではないハイブリッド車には適用されない。欧州連合(EU)の排出規定はメーカーにEV生産を強要する。

 豊田氏は今月、EV専用の生産プラットフォームの開発について言及。既存の生産アプローチの応用では、商業的にも財務的にも、世界クラスの結果は実現できないことを暗に認めた。トヨタが巨額の投資を行ってきた最先端の開発戦略「ニュー・グローバル・アーキテクチャ-」は期待していたようには世界全体に適用できないことが判明しており、不幸なタイミングだ。佐藤氏はEVプラットフォームに注力することが賢明だろう。ほぼすべての大手メーカーはすでにこの道を選んでおり、トヨタは後追いすることになりそうだ。

 数年前なら、佐藤氏は世界で最も信頼される自動車メーカーのハンドルを握る立場に昇格したとして祝福されたかもしれない。このタイミングでは、業界で最も困難とも言える仕事に向き合うことになる。

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