ハーバードにあって東大にはない「決定的な違い」とは
✍️記事要約
ハーバード大学にあって、東京大学にはない「決定的な違い」とはなにか。ハーバード大と東大の両校に通った経験をもつ教育イノベーターの本山勝寛氏は「その違いはそれぞれの入試に現れている」という――。
■「日本人には創造性が足りない」という身も蓋もない調査結果
突然ですが、これからの時代にますます重要になってくるのに、日本人に最も足りていないものとはなんでしょうか?
アドビシステムズ株式会社の2017年の調査発表によると、12歳から18歳までの日本人で自らを「創造的」と回答したのは8%、グローバル(米国・英国・オーストラリア・ドイツ4カ国)の同世代が平均44%だったのに比べて極めて低い結果となりました。また、この世代の生徒を「創造的」であると回答した日本の教師は2%にとどまり、グローバル平均の27%を大きく下回っています。
日本人には創造性が足りない。中高生も大人もそう認識している、まぎれもない事実です。
私は、学部時代を東京大学で過ごし、その後、大学院でハーバードに留学しました。どちらも国を代表する大学で、優秀な学生たちが集まっていることは共通していますが、肌身で感じた大きな違いがあります。それが、「創造性」を大切にしているかどうかです。
■ハーバードの卒業式でビル・ゲイツが語ったこと
ハーバードではとにかく、起業家や各界で変革を起こしているリーダーがよくキャンパスを訪れます。授業で教えるだけでなく、大学の外からも刺激を与え、ことあるごとに「世界をよりよくしよう」と煽ります。
私が参加した2007年の卒業式では、ゲストスピーカーとして、ハーバードを「中退」したビル・ゲイツがスピーチをしました。ゲイツはマイクロソフトの話はそこそこにして、貧しい国に住む何百万の子どもたちが亡くなっていることに触れ、こんな問いかけを卒業生たちに投げかけました。
「なぜ世界は、これらの子どもたちをただ死なせることができるのだろうか?」
そして、世界の貧困や不平などと闘ううえで、「バイオテクノロジー、パソコン、インターネットなどの現代で最も重要なイノベーションは、極度の貧困や予防可能な病気での死亡に終止符を打つ機会を与えている」と語りかけました。
■東大入試では一切出てこなかった「なぜ」という問い
ゲイツのこの投げかけが象徴するように、ハーバードでよく耳にしたのは「なぜ?」という問いです。
なぜ世界から貧困はなくならないのか?
なぜ社会には不平等が残っているのか?
なぜ世界から戦争がなくならないのか?
なぜ人はさまざまな違いによって差別をするのか?
なぜインターネットが普及しても人々は正しい情報から正しい判断ができないのか?
そして、入学前の受験プロセスから、「なぜあなたはハーバードで、この専攻を学びたいのか?」ということがエッセイで問われるほど、ハーバードでは非常に重要視されます。東大入試では純粋に学力のみが問われ、「なぜ」という問いは一切なかったことと非常に対照的です。
■イノベーションに大切な「組み合わせる」思考
ハーバードで感じたもう一つのことは、異なるもの同士の組み合わせを意図的にデザインしていることです。世界中から多様なバックグラウンドをもった学生や教授陣を意図的に集めていることから始まって、異分野同士の組み合わせによるコラボレーションが感じられることが多かったです。
たとえば、教育とテクノロジーの組み合わせとして、100ドルのノートパソコンを最貧国の子どもに届けて教育のイノベーションを起こそうとするプロジェクトや、インターネットマーケティングと政治を組み合わせて、ハーバード卒業生のバラック・オバマ元大統領がSNSを駆使して選挙活動を展開するなどです。オバマのネット戦略を指揮したクリス・ヒューズもハーバード出身で、マーク・ザッカーバーグと共同でフェイスブックを設立した人物です。
オバマの大統領就任後の手腕は置いておくとして、2007年から2008年にかけてSNSを革命的に活用したオバマの選挙活動の手法は、「ネット×マーケティング×政治のイノベーション」そのものだと感じたことを記憶しています。
■創造的な人を育てる秘訣とは
ビル・ゲイツやオバマの話などすると、遠い別次元の世界の話のようにも思いますが、ここで立ち返っていただきたい本質はたった2つです。
「『なぜ』という問い」と、「異なるもの同士の組み合わせ」です。
私は、ハーバードと東大の違いは何かという問いに対して、「創造性」ではないかと思っています。では、「なぜ両者に創造性の違いが生まれるのか?」という問いに対しては、この2つ、「『なぜ』という問い」と「異なるもの同士の組み合わせ」なのではないかと感じるのです。非常にシンプルなことです。
そして、そこに創造的な人を育てる秘訣があるのではないかと思うのです。
■東大の力だけではハーバードに入れない
ハーバード教育大学院チェンジ・リーダーシップ・グループ創設者で元共同ディレクターのトニー・ワグナーの著書『未来のイノベーターはどう育つのか』(英治出版)は、新しい時代の教育のあり方、創造的な人に育てる秘訣を紐解くバイブルとも言える名著です。私が印象に残っているのは、世界で最も創造的な教育研究機関の一つとして著名なMITメディアラボ(ハーバードのすぐ近くに位置しています)が「幼稚園にインスピレーションを得ている」という節です。
「幼稚園では複数の園児が一緒になってモノをデザインしたり作ったりする。創造性を養ういちばんいい方法は、他人と協力してモノをデザインしたり作ったりすることです。そして人は自分が強く関心があることに取り組むとき、つまりそれに情熱を注げるとき、最高の働きを見せるのです。メディアラボでは、学問領域の枠を超えて考えるよう指導しています。幼稚園ではフィンガーペインティングが、色の混ぜ方という科学の授業であり、物語を創作するプロセスでもあります」
創造性を養うには幼稚園がヒントになる。違いを超えて一緒にものをつくったり、物語を創作すること。そして、幼児はよく質問をします。「なぜ?」「どうして?」「これなに?」。そんな好奇心旺盛で、よく質問をし、人と一緒に何かをつくることが大好きな幼児らしさが、創造性の秘訣なのではないか。非常にシンプルです。ハーバードにあって東大にないものは何かという問いに対して、私が感じてきた感覚と合致します。つまり、「ハーバード=東大+幼稚園」でできているのです。
■子どもの創造性をどう伸ばせばいいのか
創造性を育む秘訣は、幼児のような心を持ち続け、好奇心から湧き上がる問いを大切にすること、そして異なるもの同士を組み合わせて何かを創作することです。
そんな観点を踏まえ、日本の子どもたちに不足している創造性を伸ばすためのツールをつくろうと思い、『そうゾウくんとえほんづくり』(KADOKAWA)というワークブックを出版しました。異なるもの同士を組み合わせて新しい言葉やオリジナルなキャラクターをつくるといったワークを積み重ねて、最後にはオリジナル絵本を創作するというものです。日本の子どもたちも、自分が創造的だと自信をもって回答できる「そうゾウくん」になってもらいたいです。
日本人に足りなかったのは、シンプルに「幼児のような心」だと思い、少し肩の力を抜いて、大人も一緒になって童心に帰ってみてください。そのうえで、子どもたちの純粋な疑問や問いを大切にし、一緒になって何かを創作してみてください。そして、立場の異なるさまざまな人たちと一緒に共同作業をするような、そんな機会をつくってみてください。