パーパスを活性化させる5つの方法とは
✍️記事要約
■真のパーパスは経営トップの言行一致から始まる
「企業のパーパス」という言葉が、経営用語のメインストリームに躍り出ているが、そこには十分すぎる理由がある。あらゆるセクターにおいて、真のパーパスドリブンを実行している企業は、そうではない競合企業に比べて、重要な指標で勝っているというエビデンスがあるのだ。
たとえば、顧客の生活の質を向上させるというコミットメントを明確にしたブランドは、株式市場の平均を100%とすれば120%の利益を上げている。また、過去10年間で、パーパスドリブン型ブランドのバリュエーションは175%も上昇した。17年間以上にわたって28社の動向を追跡した研究によれば、パーパスドリブン型企業が1681%の成長を遂げたのに対して、同期間のS&P500企業の平均成長率は118%だった。
さらに説得力があるのは、消費者の77%が従来型の企業よりもパーパスドリブン型企業に強いつながりを感じており、消費者の66%が普段購入している商品からパーパスドリブン型企業の新商品に乗り換える意向があるということだ。
では、そのような目覚ましい業績への道のりは、どこから始まるのだろうか。当然ながら、それは経営トップからだ。有能で、言行が一致し、献身的なエグゼクティブチーム、つまり他のどのチームとも異なる組織の物語を形成するガバナンス構造こそが、インパクトのある企業パーパスの形成と維持に不可欠なのである。以下に、その理由を説明していこう。
ロンドンを拠点とし、Bコープ認証(環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際的認証)を受けているリサーチコンサルティング企業のコンテキシスは、ケンブリッジ大学と提携し、コンテキシス・インデックスを用いて、企業のパーパスとその影響力を測定している。
26カ国10万人以上の従業員を対象に行った調査結果からは、企業のパーパスが従業員の行動を活性化させている度合いを計る重要な要因が明らかになった。以下のような要因から、パーパスが業績に影響与えている度合いを測定することができる。
・明確性:従業員は、企業のパーパスを明確に理解しているか。
・言行一致:経営陣は、パーパスを実践しているか。
・オーナーシップ:従業員は組織に対して、感情面の当事者意識を持っているか。
・信頼:従業員は感情面を脅かされることなく、パーパスに基づいて自由に行動できているか。
コンテキシスCEOのジョン・ロスリングは次のように述べている。
「誠実なパーパスが存在し、それが明確に理解されている組織は、戦略と目標が極めて明確であり、意思決定が迅速に行われ、並外れた適応力が見られる。言い換えると、組織においては一般に、パーパスにつながりを感じている従業員は、平均的な従業員に比べて30%以上、明確さと適応力が高い」
人材の定着と生産性がエグゼクティブの最優先課題となったパンデミック以降の職場では、明確なパーパスのある組織が再び頂点に立つだろう。さらに、ロスリングは次のように言う。
「リーダーシップチームが企業文化の中でパーパスを活性化させると、従業員の生産的行動が25~40%増加し、定着率も同じように向上する。パンデミックを経た現在、パーパスにほとんどつながりを感じなかった従業員の間では、約40%に退職の意向が見られるが、パーパスとつながりを感じている従業員については、その値が2%を超えることはほとんどない」
しかし、不安や非難が蔓延する文化の中では、パーパスの明確さから真の利益は得られない。リーダーは、確固たる信頼の文化を築く必要がある。そのような文化の中で初めて、従業員は企業が掲げるパーパスを理解し、その正当性を信じられるだけでなく、みずからも安心して組織のためにパーパスに基づいた行動ができる。明確性と信頼が組み合わさることで、並外れたイノベーションや成長がもたらされるのだ。
そこで、リーダーシップチームの一員として、自社のパーパスを真に活性化させる5つの方法を紹介しよう。
■戦略ドリブンのパーパスに沿って行動し、
便乗主義に陥らない
先に挙げたような利益が得られるため、リーダーは安易にパーパスに便乗しがちだ。しかし、世の中の人々は、うわべだけパーパスを取り繕う「パーパスウォッシング」をすぐに見破るようになっている。マーケティング担当者は、ブランドや企業のオーラを演出しようとして、あの手この手で善意に満ちたナラティブを紡ぎ出す。だが、従業員や消費者は簡単には騙されない。
企業のパーパスに関する研究によれば、消費者の84%は購入の際に信頼性を考慮するが、購入しているブランドを実際に信頼しているのは34%にすぎず、53%の消費者は企業がパーパスウォッシングをしていると思っている。
リーダーシップチームは、従業員がポジティブに行動し、業務を遂行するように、戦略と合致した自社ならではのパーパスを策定する必要がある。
筆者の一人であるリッジはWD-40のCEOを25年間務めたが、同社のパーパスは「世界中の工場・家庭・作業所の問題を解決し、ポジティブでいつまでも残る記憶を創造すること」だ。その狙いは、企業文化の中に強い帰属意識を生み出すことだった。
このパーパスが誕生したのは、すでに長く残る記憶を創造してきた同社の実績に由来する。「父と一緒に自分の自転車を修理した時のことを思い出します」といった話を、何度となく顧客がしてくれたのである。
このパーパスには、WD-40ならではの独自性がある。というのも、同社では長年かけて、強い帰属意識を持つ「トライブ・カルチャー」の醸成に取り組み、それが傑出した業績につながってきたからである。
同社の戦略目標にとって不可欠な要素は、独自性があり、価値が高く、信用を植えつけるようなソリューションを提供することだった。そのようなソリューションを創出するのに最適な環境とは、周囲から信頼され、自分でも自信があると感じられる環境である。
■ステークホルダーの相入れない期待に対処する
企業においてエグゼクティブチームほど、数多くのステークホルダーからの要求、それも相反することが多い要求に直面する集団はない。
顧客や株主、取締役会、サプライヤー、地域社会、政府や規制当局、そして当然ながら、従業員も無限に要求を突きつけてくる。あちらを立てれば、こちらが立たない。そのような状況で、期待に上手に対処することは、特に厳しい局面においては、完全に信用を失なわないためにも重要である。
強力かつ明確なパーパスは、企業が何を象徴するかを定義する。パーパスは、すでに決定したことの蒸し返しや問題の再発を減らし、意思決定のスピードを高めるものでなくてはならない。たとえ、意思決定の内容が一部のステークホルダーからの期待に沿わない場合であっても、決定の背景が明確かつ企業のパーパスにひも付いているならば、落胆しているステークホルダーたちも折り合いをつけられるだろう。
「なぜ、そう決めたのか」という問いに答えられなければ、大きな不満が残る。パーパスは「なぜ」という問いに、すぐに答えを出せるものでなければならない。
■違反行為に対して、適切に処分を行う
パーパスや価値観のように、企業のアイデンティティに関わるステートメントは、聖域にしなければならない。それが、参加しても参加しなくても構わない「ボランティアプログラム」になった瞬間、会社が本気ではないと従業員は解釈するだろう。
筆者の一人であるカルッチが、3200人以上のリーダーを対象に実施した15年間の縦断研究では、言行が一致しない企業では、従業員が不誠実になる可能性が3倍高まることが明らかになった。言行不一致の姿勢から「この会社は、言っていることとやっていることが違う」ということが、従業員に伝わるのである。
パーパスが実質的な意味を持つには、パーパスと矛盾する、あるいは合致しない行動を取った人への対応が必要になる。
リーダーは、企業のパーパスを堕落させるような有害な言動に、勇気を持って立ち向かわなければならない。そのような人がいた場合、行動を変えるようにコーチングするか、さもなければその人自身を排除する必要がある。リーダーシップチームは、いかなる個人の貢献よりも、パーパスによって創造される文化を重視しなければならない。
筆者のリッジは、WD-40のCEOに着任するにあたり、リーダーに対して、部下の能力を開発し、そこに投資することを期待していると最初に言明した。能力を開発できずに従業員を解雇したならば、その部署の最上位のリーダーを解任して「競合他社に分け与える」と宣言したのである。
リッジが言行一致を試されたのは、まだ就任からまもない時期に、ある従業員が解雇されたことを知った時だった。まず、その従業員の直属の上司と会い、能力開発プランを見せるように求めたが、そもそもプランが存在しないことがわかった。リッジは約束通り、直属の上司や解雇された従業員よりも数段高い階層にいる、最上位の責任者のところに赴き、その人物を解任した。
あまりにも厳しい措置に聞こえるかもしれないが、パーパスに基づく原則に忠実であろうとするならば、あなたが本気であると従業員に理解させることが欠かせない。聖域とする原則が破られた時の対処の仕方によって、確固たる姿勢で原則を重んじていることが従業員に瞬時に伝わる。
リッジは期待を明確にし、期待を満たすために必要なリソースをリーダーに提供した。失敗が生じた時には、事前に予告した通りの対応を貫いたのだ。
■難しいトレードオフを実行し、伝える
パーパス実現を目指した、短期的および長期的な取り組みに投資する際には、難しいトレードオフを迫られることが少なくない。真にパーパスドリブンでいることはロングゲームであり、時には素晴らしいアイデアに対してもノーと言うことが、パーパスを持続させるカギになる。そのようなトレードオフをなぜ行うか、あるいはどのように行うかについて、明確で透明性が担保されていることが、従業員との信頼関係を維持するうえで欠かせない。
多くのエグゼクティブは、従業員を失望させることを恐れて「イエス」を多発する。その結果、多くの優先事項に振り回され、本当のパーパスに対するコミットメントが曖昧になり、企業としての焦点がぼやけ、リソースが希薄化する。
たとえば、WD-40のコアコミットメントの一つは、絶対に発がん性物質を製法に取り入れないことだ。がんは「ポジティブでいつまでも残る記憶」から、最も遠いものだからである。したがって、サプライチェーンの一翼を担う同社の従業員は誰しも、発がん性物質の使用による大幅なコスト削減の機会を提示されても、迷うことなく即座に「ノー」と答えるだろう。たとえ、収益性や株主利益を向上させるチャンスだと言われても、である。
■大胆に抱負を設定する
最高の仕事ができるように従業員のモチベーションを刺激し、独創的なアイデアにインスピレーションを与えるようなパーパスを策定するのは、容易なことではない。単なるスローガンを超えて、自社の軌道を形づくるような強い意志を持つには勇気がいる。
パーパスがあることは、パーパスステートメントがあることと同じではない。パーパスは実行することそのものであり、パーパスステートメントは復唱するものだ。「大胆であれ」というのは、何も「地球を救え」「世界を変えろ」ということではない。パーパスは、企業や業界としてのあり方、そしてすべてのステークホルダーへの貢献に対して誠実なものでなくてはならない。
ヒューバート・ジョリーがベスト・バイのCEO時代に取り組んだことは、その好例だ。ベスト・バイの「技術を通じて人々の暮らしを豊かにする」というパーパスは、同社のあらゆる活動に浸透していた。十分なサービスを受けられない地域にテクノロジーセンターを設立したことも、その一つである。
WD-40では「ポジティブでいつまでも残る記憶を創造する」というパーパスに導かれて、従業員は毎日職場に通い、自分自身よりも大きな何かに貢献し、新しいことを学び、説得力のある価値観によって解き放たれる。幸せになって家に帰れば、幸せな従業員は幸せな地域社会に貢献するという考え方なのだ。
これは大胆な抱負である。同社のラテンアメリカ・カリブ海地域担当ゼネラルマネジャーのティアゴ・ダミーコは、次のように言う。
「当社の文化は、安心と帰属意識を実感できるような、ポジティブで人を力づける環境を提供しています。だからこそ、コモングッド(公共善)のために奉仕し、貢献したくなるのです。当社の価値観は、行動を起こしたり、学んだりする自信を得られる枠組みとして機能しています。従業員の成長を促し、その家族や地域社会にポジティブな影響を与える行動へと駆り立てるのです」
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経営面でも競争面でも企業を際立たせるような、持続性のあるパーパスを形成するには、リーダーシップチームがその道を切り開かなければならない。当然ながら、それは簡単な仕事ではない。しかし、最高の人材を引き寄せ、最高の満足を顧客に与え続けるには、誠実なパーパスを実現していくことが必須条件になりつつある。
いまから数年後、あなたの組織が話題に上る時、パーパスはその話の中心になっているだろうか。