仕事のできる人ほど映画内容を説明できる理由
✍️記事要約
仕事のできる人と、そうでない人は何が違うのか。精神科医の樺沢紫苑さんは「仕事のできる人は、思考を自分の言葉で表現する言語化能力に長けている。そうした言語化能力は毎日のトレーニングで伸ばすことができる」という――。(2回目)
※本稿は、樺沢紫苑『精神科医が教える 毎日を楽しめる人の考え方』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■映画は「見終わった後」がなによりも楽しいと私が話すワケ
私は映画が大好きです。そして、本書の中でも「映画鑑賞」は、もっともお勧めの娯楽の1つとして、何度も登場しています。
しかしながら、映画館で映画を見て、「あー、おもしろかった」で終わってしまっては、それは「受動型娯楽」であり「インプット型娯楽」でしかないのです。
「あー、おもしろかった」だけだと、2時間の間はハッピーかもしれませんが、1カ月後にその内容を、すっかり忘れているかもしれない。そうすると、自己成長につながるはずもなく、もったいないのです。
私はいつも、「映画を見たらアウトプットしよう!」と言います。
映画を見たら、一緒に映画を見た、友人、恋人、家族と、その内容について話す。自分の感想を文章にまとめて、SNSやブログに投稿してみる。その映画から得た気づきをメモやノートに書いてみる。
■アウトプットでも大きな喜びを感じられる
多くの人は、「映画を見ている最中が楽しい」と思うでしょうが、私は「映画は終わった後が楽しい」が持論です。その映画について、ほかの人と話す。
その映画のわからない部分をネットで調べて「謎」が解明され、「ああ、そうか」と腑に落ちる。その作品の製作秘話を読んで、「そんなに大変な作業で撮影されているのか」と知る。
あるいは、その映画の感想を文章にまとめて、ブログやメルマガに公開する。自分の頭の中が、客観的な文字列に置き換わっていく。
アウトプットの1つ、「言語化」は、最大の快感です。自分が思っている通りの文章が書けたときの喜びは、非常に大きいです。
■感情を「言葉」に置き換える「言語化」能力
「話す」「書く」「行動する」。アウトプットによって、さまざまな能力が鍛えられます。アウトプットは最強の脳トレと言えますが、数ある能力の中でも、私がもっとも注目するのは、アウトプットによって「言語化」能力が鍛えられることです。
言語化とは、言葉で表現すること。感情や直感的なものを、「言葉」に置き換えることによって、説明、伝達可能にすることです。
「言語化」というのは一般的な会話でも使われますが、実は心理学の用語でもあります。
心理学では、患者(クライアント)さんが心の中に抱えていた漠然とした感情、思いを言葉にすることを「言語化」といいます。カウンセリングや治癒のプロセスにおいて極めて重要です。
■「言葉で説明できる」=「不安の正体、原因が見える」
「言葉で説明できる」ということは、「客観的に認識できた」ということ。つまり、一気に対応、対処、解決可能となるのです。
たとえば、原因不明でとらえどころのない「漠然とした不安」について、合理的に対応、対処することは困難です。いつ、どういうシチュエーションで不安は起きるのか。不安は、何分続くのか。どういう状況で不安は軽減するのか。
それらを、1つ1つ言葉にしていくと、不安の正体、すなわち原因が見えてきます。その先にあるのは、「安心」です。
■体調不良、メンタル不調の早期発見も可能に
ちなみに、精神科の患者さんは、言語化能力が乏(とぼ)しい人がほとんどです。つまり、「言語化能力が乏しい」→「理論、理性的に考えるのが苦手」→「感情に流されやすい」→「対応できない」ということになります。
言語化能力は、「観察能力」「自己分析能力」であり、「説明能力」「論理的思考力」そのものと言ってもいい。言語化能力が高い人は、「現実認識能力」が高い。つまり、今何が起こっているのかを、冷静に客観的に中立に捉えられるということ。
毎日、日記を書いて、言語化能力を磨いていく。そうすれば自分の「悩み」や「ストレス」の正体を自分で分析できるし、体調不良、メンタル不調も、ごく軽微な状態で発見できる。メンタル疾患の最大の予防です。
また、言語化能力が高いということは、「失敗した原因を言葉で説明できる」ということ。つまり、フィードバック力が高い。つまり、修正力が高いということ。きちんとフィードバックできていれば、同じ失敗を二度と繰り返すことはありません。失敗を経験に変えていけば、失敗するごとに飛躍的に成長していくのです。
■同じ失敗を2度、3度する人の特徴
言語化能力が低い人は、「なぜ失敗したか」「なぜうまくいかないか」を言葉で説明することができません。つまり、「何となく失敗した」としか言えない。
当然、失敗の理由、原因も説明できない。とするのなら、次もまた同じ失敗をするしかないのです。同じ失敗を二度、三度繰り返す人。その理由が説明できない人は、間違いなく言語化能力が低いのです。
もしあなたが、言語化能力が低かったとしても、落ち込む必要はありません。自分の意見を聞かれて、スパッと答えられる人は、せいぜい10人に1人くらいでしょう。
逆を言えば、言語化能力が高い人は、職場やビジネスにおいて極めて有利です。上位10%に入ることができます。
特にこれからのAI時代、「インプット仕事」よりも「アウトプット仕事」が必要とされる時代では、言語化能力が勝者と敗者をわける鍵となるはずです。
■1日15分で言語化能力は向上する
「言語化」能力を磨くのは、簡単です。アウトプットを日常にすれば良いのです。
・本を読んだら感想を書く。
・映画を見たら感想を書く。
・おいしいものを食べたら、感想を書く。
・今日あった、楽しかった出来事を文章にする。
つまり、「遊び×アウトプット」を、1日15分でも続ければ、たったの3カ月でも言語化能力は飛躍的に向上します。
実際、私のコミュニティ、樺沢塾や樺沢紫苑オフィシャルファンクラブ「しおんず」で、アウトプットのイベントをよく行いますが、たった2、3カ月、たった数回のプレゼンテーションをしただけで、飛躍的にアウトプット力が向上する事例が多発しています。
短期間で言語化能力をアップさせるには、「話す」よりも「書く」アウトプットは効果が大きいです。特にSNSやブログなど、不特定多数の人が読むメディアに書くと緊張感も生まれ、成長スピードは何倍にもアップするでしょう。
■すべての「遊び」をアウトプットするべき
ということで、「遊び×アウトプット」で言語化能力が飛躍的にアップする。あなたの人生は、簡単に変えられるのです。
映画を見たらアウトプット。
本を読んだらアウトプット。
おもしろいテレビ番組を見たらアウトプット。
旅行に行ったら、写真とともに、その楽しい体験をアウトプット。
おいしいものを食べたら、写真とともに、その感想をSNSにアウトプット。
今日1日の「楽しかった出来事」を、日記にアウトプット。
映画や読書に限らず、すべての「遊び」「娯楽」「楽しい体験」をアウトプットするべきです。
アウトプットの掛け算で、あなたの脳は活性化し、頭が良くなる! アウトプットすることで、圧倒的に記憶に残りやすくなる。
「楽しい体験」を毎日、アウトプットしていれば、あなたの頭の中は「楽しい」「楽しい」「楽しい」で埋め尽くされます。「今日、楽しい」が、365日、それが10年、50年続くのが、「楽しい人生」「幸せな人生」です。
■苦しい時に出るノルアドレナリンは強力
「つらい体験」「苦しい体験」は、勝手に記憶に残ります。苦しいときに分泌される脳内物質、ノルアドレナリンは、記憶増強作用がものすごく高いからです。
あなたが上司に叱られた体験。それが数カ月前のものでも、いまだに「失敗体験」を引っ張っているのは、不安と恐怖とともに分泌されるノルアドレナリンの影響です。
アウトプットの記憶増強効果は、非常に絶大です。
たとえば昼間、「上司に叱られた」という「ものすごく嫌な体験」(ネガティブ体験)をしましたが、会社の帰りに、映画を見て「すごくおもしろかった!」(ポジティブ体験)という体験をしたとします。
■「ネガティブな体験」を消し去る、とっておきのワザ
この時点ではまだ、脳に対するインパクトは、ネガティブ体験のほうが強烈なのです。だから、そのまま布団に入ると、布団の中で「上司に怒られた嫌な記憶」が蘇り、「寝る直前に考えたことは強烈に記憶される」という脳の法則によって、何カ月も忘れられなくなるのです。
だから、「おもしろい映画」を見たら、アウトプットとします。
「今日見た映画、最高におもしろかった!」と家族に話す。友達、恋人に電話で話す、メッセージで伝える。できれば、その映画の感想を短文でもいいので文章に書いて、SNSに投稿する。
そうすると、「何度も使われた記憶を脳は保存する法則」……アウトプットの記憶増強効果によって、脳の中ではネガティブ体験よりも、ポジティブ体験のインパクトが強まります。
寝る直前に、「ああ、今日はおもしろい映画を見た、とても良い1日だった」と思いながら寝ると幸せな気持ちで、深い睡眠に入れます。
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