健康な子も「みんなワクチンを打つべき」は本当か
✍️記事要約
感染力の高いオミクロン株の影響で、子どもたちにも感染が広がっている。保育園や幼稚園、学校などでのクラスターが報告され、子どもの自宅待機に伴って会社を休むことになった親も多いのではないだろうか。
こうした中、3月から始まった5歳から11歳までの子どもに対する新型コロナワクチン接種。認可されているワクチンはファイザー社のものだが、副反応のこともあり、子どもに接種させるべきか悩む親も多いだろう。
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会は、「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を公開。そこでは、〝国内における5~11歳の新型コロナ感染症症例の大多数は軽症だが、感染率が同年代人口の1~2%にとどまるなかでも、酸素投与などを必要とする中等症例は散発的に報告されている〟ことや、〝長期化する流行による行動制限が、子どもに与える直接的および間接的な影響は大きくなっている〟ことなどを挙げ、そのうえで以下のような考え方を示している。
1)子どもをCOVID-19(新型コロナウイルス)から守るためには、周囲の成人(子どもに関わる業務従事者等)への新型コロナワクチン接種が重要
2)基礎疾患のある子どもへのワクチン接種により、COVID-19の重症化を防ぐことが期待される。基礎疾患を有する子どもへのワクチン接種については、本人の健康状況をよく把握している主治医と養育者との間で、接種後の体調管理等を事前に相談することが望ましい
3)5~11歳の健康な子どもへのワクチン接種は、12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義があると考えられる。健康な子どもへのワクチン接種には、メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要
(日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」ウエブサイトから一部抜粋し編集部で改変)
正直、これを読んだだけでは基礎疾患のない子どもへのワクチン接種が推奨されているのかどうかわからない。そこで、『新型コロナワクチン 本当の「真実」』の著者で、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんに、次々と報告される諸外国のデータを基に〝親が考えたい子どもへのワクチン接種〟のヒントをもらった。
■「子どもは重症化しにくい」は本当か
まず、ワクチンについて触れる前に、子どもと新型コロナ(あるいはオミクロン株)について考えたい。過去記事(「子どもとコロナ」第6波の前に今押さえたい事実」)でも触れているが、一般的には子どもはかかっても重症化しにくいと考えられている。
だが、世界的に見ると必ずしもそうではなさそうだ。
「これはイギリス、フランス、スペインの3カ国で、成人と子どもの感染者数と入院者数を比べたものです。見るとわかるように、成人では感染者数に対して入院者数はあまり増えていませんが、子どもでは感染者数と同じように割合が急に高くなっています」(宮坂さん)
大人(成人)の入院者の割合が低いままなのは、大人のワクチン接種が進んでいるからだという。
ちなみに子どもへの各国のワクチン接種の状況はどうか。「小児を対象とした新型コロナワクチンの諸外国における状況(第30回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料より抜粋)」によると、イギリスは重症化リスクが高い子ども、または免疫不全の人と同居している子どもは接種可能とし、フランスでは子どもに対して接種を推奨している。
ひるがえって、日本はどうなのか。宮坂さんは大阪のデータを紹介する。今年2月24日からのデータだが、入院が必要な人は圧倒的に大人が多く、このデータでいうところの最新にあたる2月25~3月3日は、573人中430人が70代以上だった。
「ヨーロッパとはかなり違った状況で、日本はやはりいわれているように、感染者は出ているけれど、重症者は非常に少ないということがわかります」(宮坂さん)
では、なぜ日本の子どもたちは重症化しにくいのか。そこには子どもならではの免疫の仕組みが関わっていると宮坂さんは言う。
私たちが持っている免疫には、大きく生まれつき持っている「自然免疫」と、生まれてから得られる「獲得免疫」の2種類がある。新型コロナワクチンで注目されている抗体は、獲得免疫側の免疫細胞であるB細胞が作り出す免疫の武器だ。
実は、子どもはこの両方の免疫の能力、言い換えればウイルスを排除する能力が高いので、ウイルスに感染してもなかなか重症化しにくいという。
「自然免疫は生まれたときからある免疫ですが、実はさまざまなウイルス感染やワクチンによって強化され、その状態のことを『訓練免疫』と言います。子どもは小さい頃にたくさんの種類のワクチンを打つので、それによって訓練免疫が得られるのだと考えられます」(宮坂さん)
さらに最近になって子どもは獲得免疫、なかでも司令塔といえるT細胞の量や働きも大人より子どものほうが勝っていることがわかってきた。次に示すのは、イギリスで出た最新のデータだ。
「このグラフは、新型コロナに感染した生徒と教師、しなかった生徒と教師の、コロナ反応性のT細胞の量を比較したものです。当然、新型コロナにかかった子どものT細胞は増えていますが、興味深いのは感染していない子どもでも、感染した大人と同じぐらいT細胞の量が増えているということ。これはコロナに感染していなくても大人レベルの免疫は持っているということを表しています」
これは、子どもが大人より最近、一般的な風邪の原因でもあるコロナウイルスに感染した経験がある、つまり新型コロナと似たものに免疫を持った(交差免疫を持った)ためかもしれないと分析する。
以上のことから、子どもはもともと持っていたり、生まれてから獲得したりした免疫によって、新型コロナワクチンを接種しなくても重症化しにくいことがわかる。
後遺症はどうだろうか。実は大人の新型コロナの後遺症については明らかになっているが、子どものデータは今のところ出ていない。「あくまでも大人の場合ですが、ワクチンを接種すると後遺症が出る割合が半分から3分の1にまで抑えられる。つまり予防効果があります。しかし、子どもたちにどれくらい後遺症が表れるかがわからない今、検討できる材料がありません」と宮坂さんは指摘する。
■結局、子どもにメリットはどれだけあるのか
続いて、子どもにワクチン接種をした場合どれくらいメリットがあるか見ていく。
日本小児科学会では、「海外では、5~11歳の小児に対する同ワクチンの発症予防効果が90%以上と報告」としているが、大人のワクチンでも経験しているように、時間の経過による接種効果の変化まではわからない。
それを解決してくれるのが、アメリカのCDC(疾病対策センター)が2022年3月1日に出した報告書だ。ここには、5~11歳、12~15歳、16~17歳の3つのグループの、救急搬送と入院に対する有効率が出ている。宮坂さんによると「緊急搬送=発症」、「入院=重症化」と置き換えてみてもよいという。
「結果は、すべてのグループで、2回目のワクチン接種2週間後から2カ月後までは高い有効率があったのですが、12~15歳、16~17歳のグループでは5カ月後になると、入院を防ぐ効果はあったものの、救急搬送に関する効果は失われていました」
5歳~11歳に関しては接種開始から日が経っていないことから、5カ月後のデータはまだ出ていない。
つまり、重症化予防効果は持続するものの、発症予防効果は約半年後にはなくなってしまうというわけだ。この報告では、16~17歳では3回目接種の状況も出ているが、そうすると大人と同様、効果が復活していた。5歳~11歳のワクチン量は大人の3分の1だが、この結果にワクチン量は関係していないのではないか」と、宮坂さんは言う。
「結局、子どもも2回接種では時間が経つと発症予防効果が落ちるので、半年後ぐらいには3回目接種が必要ということになります」
これに対して副反応は、アメリカの子ども約4万人への調査では、2回接種後に局所反応が57.5%、全身反応が40.9%、発熱は13.4%に認められた。また、約4000件の副反応疑い報告があり、このうち97.6%が非重篤で、重篤として報告された中で最も多かったのが発熱で29件。心筋炎も11件あり、全員が回復したという。
■健康な子はどうすべきか
重症化しやすい気管支ぜんそくや先天性の心疾患などの基礎疾患を持つ子は、重症化予防としてワクチン接種が期待される。だが、健康な子に対するワクチン接種のメリットとリスクをどう捉えるか――。それを踏まえて宮坂さんは自身の見解を述べる。
「子どもはそもそも現段階では感染しても重症化しにくい。とくに日本ではそれが明らかになっています。イギリスなどのように子どもの入院が増えてくれば子どももワクチンを接種したほうがいいと思いますが、結局2回打っても効果はすぐに減弱してしまう。それを踏まえて今のワクチンの上乗せ効果のメリットと、副反応のリスクを比べると、今、無理をして打つ必要はないでしょう」
もちろん、子どもに持病があったり家族内に感染者を出したくなかったりといった事情があるときは、当然ながら接種するという選択肢もありうる。
何より大事なのは、大人の3回目接種を進めること。これは日本小児科学会でも言っていることだ。内閣府の報告によると3回目の接種率は31.9%にとどまっている。子どもに感染させないためにも、まずはそちらを進める必要があるだろう。