日本より深刻な韓国の少子化 背景
✍️記事要約
少子化への危機感が日本で叫ばれているが、お隣の韓国はさらに深刻な状況にある。韓国政府が2024年2月末に発表した23年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値)は0.72で、過去最低を更新した。22年に過去最低の1.26となった日本と比べても、著しい低さだ。韓国政府も対策に取り組んできたが、低下に歯止めがかからず、抜本的な解決策は見えないまま。背景に「韓国の女性たちの変化」があると指摘する専門家もいる。
韓国の出生率は2015年以降、低下の一途をたどっている。18年には1.00を切った。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、出生率が1.00を下回るのは韓国だけ。韓国統計庁は「24年にはさらに低下し、0.68になる」との見通しを示している。
反比例して、65歳以上の高齢者の割合を示す「高齢化率」は上昇し続けている。10年の時点では10・8%で、23.0%だった日本の半分以下だったが、30年までに高齢化率21%超の「超高齢社会」へ突入し、45年には日本の高齢化率も上回ると予想されている。
少子化の影響はさまざまなところで表面化し始めている。韓国紙・東亜日報によると、教育省は24年2月、新入生ゼロの小学校が同年は、全国6175校中157校に上ると発表した。幼稚園や保育園の数も減少しており、育児政策研究所の報告書は、28年に22年の3分の1程度が減るとの分析を明らかにしている。
また、国防白書によると、韓国軍の兵力は20年末の約55万5000人から22年末には約50万人にまで減少した。対する北朝鮮は、128万人余りの兵力を擁し、出生率も1・8と高い。北朝鮮と対峙する韓国にとって兵力の維持は必須の課題となっている。
政府の強い危機感の表れが、「出入国・移民管理庁(移民庁)」の新設だ。尹錫悦政権の初代法相を務めた韓東勲氏が推し進めたもので、政府は23年12月、同庁の設置を盛り込んだ27年までの基本計画を発表した。移民の受け入れに世論の根強い反対がある中で、こうした政策を推進する背景には、移民に頼らなければ社会の仕組みを維持できなくなるとの現実的な問題がある。
こうした少子化の背景には、不動産価格の高騰で家を持つハードルが上がっていることや、子どもの教育にかかる費用の負担が大きいことなど、さまざまな要因が指摘される。韓国政府はこれまでに280兆ウォン(約31兆5000億円)余りを保育施設の設置や出産支援などの対策に投入してきたものの、低下が止まる兆しは見えない。
根本的な原因は何なのか―。日韓の少子化問題を研究してきた茨城大(日本)講師の笹野美佐恵氏(家族社会学)は、「韓国の女性の教育水準が短期間で爆発的に上昇し、女性たちの価値観が急激に変化したこと」が背景にあるとみている。
笹野氏によると、韓国で20代半ば~30代半ばの「娘世代」の女性は、大学進学率が22年時点で76.6%と高い。だが、その親世代をみると、大学で高等教育を受けた人の割合は60ポイントも低い。OECD加盟国の平均で、その差は20ポイント程度にとどまるといい、笹野氏は「他国では(曾祖母から娘までの)4世代にわたって経験するような変化を、韓国の女性は(母娘の)2世代で遂げた。女性の高学歴化により、価値観が急激に変化した」と解説する。
家父長的な社会の韓国では、祭祀で家族や親戚が集まる場合に料理を準備するなど、女性に「嫁」としての役割が求められてきた。笹野氏は、「結婚し『嫁』として生きるしかなかった世代は、娘には『私のようにはならないで』と望み、教育に投資した。それを受けた女性の社会進出が00年以降、一気に進んだ」と話す。
現在30代の筆者の友人や知人は、こうした「娘世代」に当たる人が多い。ソウルに住む30代の女性会社員は「価値観が形成される小学生の時期に、アジア通貨危機(97年)を経験した。当時、(経済的な不況から)親がけんかをしたり、家庭が崩壊したりしたケースもあった」と振り返った上で、「将来落ちこぼれになるのではないかと怖く、ずっと努力してきた」と吐露した。
進学や就職はやり直す機会があるが、結婚や出産は取り返しのつかないものだと女性は考えており、「自分ではないもう一つの人生が、自分によって決められるという圧迫感がものすごく大きい。自分の不幸を子どもには経験させたくない思いがある」と語った。筆者の周囲に限った話ではあるが、韓国では、日本の同世代の友人らに比べると結婚や出産をしていない人が多く、「一生結婚する気はない」と言う人も少なくない。
政府系の研究機関・韓国保健社会研究院が23年8月に実施した調査によると、結婚していない男女のうち「結婚する考えがある」と答えた人の割合は51.7%で、およそ半数にとどまっている。女性は47.2%、男性は56.3%で、女性の方が結婚を望まない割合が高い。出産に対する意識も同様の傾向があり、既婚者を含めた場合でも、女性の51.3%と男性の38.0%が「子どもを産まない(持たない)」と回答していた。
調査からは、結婚や出産を選ばない価値観が、韓国の若い世代に広がっていることがうかがえる。漢陽大(韓国)国際大学院の田英洙教授は、韓国政府がこれまで取ってきた対策について「出産の意図がある人を対象としているが、晩婚化や非婚化が広がる状況では若者が恩恵を受けられず、ミスマッチが生じている」と指摘。若者の人生設計や、価値観の変化を踏まえた対応が必要だと話す。
日本も韓国のようになるのだろうか。笹野氏は「日本も少子化は進むが、韓国のようにはならない」とみており、「日韓の少子化の要因は異なるためだ」と説明する。韓国では、結婚しても子どもを産まないことを選択する人が増えているのに対し、日本では、結婚したら子どもを持ちたいと考える人がまだ多いという。日本の若者にはまだこうした「伝統的な家族観」が残っているため、韓国よりは出生率低下が緩やかに進むとみる。
ただし、日本の出生率も1.26にまで低下しており、人口を維持するために必要とされる出生率2.07をはるかに下回っている。日本でも若者の生き方や家族の在り方が多様化しつつある中、女性たちの価値観が変化し得るという視点から、少子化問題を考えてみる必要があるだろう。
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☘️ヤフコメ❗️ピックアップ☘️
韓国ドラマなどを見ていると、子どもの受験競争の激しさは中国以上だと戦慄をおぼえるほどで、かわいそうになります。子どもを産んだら、我が子をあの厳しい競争に放り込まなければならない、自分もせっかく積み上げてきたキャリアが中断すると思うと、二の足を踏むのでしょう。
✅ 日本では結婚さえすれば子どもをもつひとが多く(ぎゃくに言えば、子どもをもつために結婚するが)、合計特殊出生率が1を超えているが、1を割り込んでいるとは衝撃的な数字に見える。これは女性の高学歴化にだけ原因を求めるのも一面的である。女性たちが結婚を回避しているだけではない。調査していると結婚している夫婦も「子育ての費用が高すぎる」「子どもをもつよりも自分たちの生活を大切にしたい」「子どもをもつことで、生活水準を落とせない」と語ることが多い。実際、結婚しても子どもをもつことを選択するひとたちの割合は、日本よりも低い。
徴兵経験のある男性に聞くと、以前ならはじかれていたような人たちまで軍隊に来ていると言っていた。その一方で、他国に移住する計画を口にする女性たちも多い。東アジアの他国と比べれば日本はエリートの子どもの学歴志向が相対的に弱い点で、出生率がなんとか持ちこたえている、という気すらする。
✅ 日本においても1990年代前半に女性の高卒後の進学率が(短大、四大)急激に上昇して男女の進学率が大きく逆転しましたが、結果的にその世代が最も未婚率が高くなっています。
また1982年の出生動向基本調査にて「女性の進学率が高くなるとフランスのように未婚率が上がるかもしれない」と分析されており、40年前の危惧が概ね当たった形になっています。