✍️記事要約
西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「歳をとってからの時間」。
【老後】ポイント
(1)歳をとると時間が過ぎるのが早くなるというが本当か
(2)私の時間の流れは70歳代も80歳代も変わらない
(3)時間が過ぎる早さは、日々の過ごし方によるのでは
歳をとると、時間が過ぎるのが早くなるといいます。本当でしょうか。
実は貝原益軒も『養生訓』のなかで、そういうことを言っているのです。
「老後は、わかき時より月日の早き事、十ばいなれば、一日を十日とし、十日を百日とし、一月を一年とし、喜楽して、あだに、日をくらすべからず」(巻第八の4)
つまり、歳をとると10倍早く時間が過ぎるので、無駄に過ごさず、時間を惜しめというのです。
10倍とは、ずいぶん早いですね。私自身が振り返ってみて、70歳を過ぎてからの16年間で、時間が早くなったという感じはしないのです。
益軒は『養生訓』でこう続けています。
「心しづかに、従容として余日を楽み、いかりなく、慾すくなくして、残躯(ざんく)をやしなふべし。老後一日も楽まずして、空しく過すはおしむべし。老後の一日、千金にあたるべし」(同)
残躯とは老いぼれて生き残ったからだのことです。この「残躯をやしなふ」というのが、私が思うナイス・エイジングのイメージとは違っています。その言葉には、人生はもう終わってしまって、残りを生きるという感じがあります。そうではなく、もっと、積極的に自分のいのちのエネルギーを死ぬまで高めていく。それがナイス・エイジングです。
私の日々の生活は、70歳代も80歳代も変わっていません。例えば、毎週の金曜日。
3時30分起床、自宅で自分の仕事、たとえば連載用の原稿執筆など。
5時、出勤、病院でも執筆を続ける。
6時40分、院内の道場で早朝気功。
7時40分、朝食。
8時、外来勤務開始。
10時、おやつ。
13時15分、休憩に入り昼食。
14時30分、外来勤務が再開。
16時30分、道場で名誉院長講話。
18時、夕食。
19時30分、帰宅し入浴。
21時、就寝。
この日常を繰り返している限り、私の時間の流れは変わりません。ところが、コロナのお陰で、変化が生まれてしまいました。
早朝気功と名誉院長講話ができなくなりました。このほか、毎週のように出かけていた講演が、パッタリ消えてしまいました。夜の会合もなくなりました。
幸い最近は講演も増えてきましたし、会合も復活しているのですが、コロナ自粛の2年の間に日常生活にできた空白の時間は大きかったです。
この2年間については、私の時間の流れがこれまでと変わりました。いつもより、早く過ぎたかもしれません。
時間が過ぎる早さというのは、年齢によって違うのではなく、日々の過ごし方によるのではないでしょうか。少なくとも、私の場合はそうです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中