筋トレブームの火付け役が「1日15分しかしない」理由
✍️記事要約
人生100年時代に我々の前に立ちはだかるもの、それは「諦(あきら)め」である――。NHKの人気番組「みんなで筋肉体操」。「筋肉は裏切らない」のフレーズでブームを起こした順天堂大学先任准教授の谷本道哉氏(49)が、「80歳の壁」を越えるための筋トレを指南する。あなたが何歳でも諦念は無用。
〈あと5秒しかできません!〉
NHKの「みんなで筋肉体操」に出演するなかで、私はさまざまな“筋トレ語録”を作ってきました。
あと5秒もあると思うのではなく、あと5秒しかできないと考えると「つらさ」は「楽しみ」に変わり、筋トレを前向きに捉えることができるかもしれない。
〈明日の筋トレが今からもう待ち遠しいですよね〉
〈筋肉の嬉しい叫びが聞こえましたね〉
〈筋トレできつくなったときは「頑張るか、頑張れないか」ではありません。「頑張るか、超頑張るか」の二択で考えてください〉
こうした前向きなパワーフレーズで、みなさんに自分の筋肉を追い込み切ってほしいですね。
■ 「筋トレは義務ではなく権利」
なぜ筋トレをするのか。そこには、できる限り筋肉を大きく発達させるため、あるいは健康寿命を長く保つため、といった目的が存在します。つまり私たちは、目的を達成するために、やりたくて筋トレをしているのです。そうであるならば、楽をしたいとか、サボりたいとか、本来そういう発想は出てこないはずです。
これはなにも筋トレに限った話ではありません。どんなことでも前向きに捉えたほうが人生は豊かになると思うんです。例えば、終業1時間前に「まだ1時間も残っている」と考えるのと、「あと1時間しか仕事できない」と捉えるのとでは、仕事のはかどり方が違ってくるのではないでしょうか。
そう考えると、「筋トレ観」は「人生観」につながっているといえるかもしれません。
そして、筋トレは何歳になっても、始めるのに遅いということはありません。人生100年時代を生き抜くために、60歳、70歳、80歳、いくつになっても、その年齢にあった筋トレは可能です。しっかりと正しい筋トレをすれば、その分、必ず筋肉は成長します。
それでは早速、正しい「筋トレ観」と「筋トレ術」を一緒に学んでいきましょう。その前に、筋トレに関する学びの力が駆動するパワーフレーズをもうひとつ。
〈もっと出し切ってもいいですよ。もっと高く上げてもいいですよ〉
そう、筋トレは義務ではなく、私たちに与えられた権利なのです。
■ 流行語大賞にもノミネートされた「筋肉は裏切らない」
〈順天堂大学スポーツ健康科学部の谷本道哉・先任准教授。2018年からNHKの「みんなで筋肉体操」に出演し、「筋肉太郎」の異名を持つタレントの武田真治らとともに筋トレの普及に貢献してきた。
工学部出身の谷本氏は、理系的な知見をもとに筋トレを解析し、同時に多くの人の感情を揺さぶる数々の前向きな文系的パワーフレーズを生み出してきた。
〈筋肉は裏切らない〉
代表作であるこのフレーズは、18年の新語・流行語大賞にノミネートされてもいる。
そんな谷本氏が、「正しい筋トレ」のあり方について続ける。〉
「みんなで筋肉体操」に出てくる語録は、基本的に私が考えていますが、〈筋肉は裏切らない〉は、ディレクターが考えてくれたものです。非常にシンプルで、インパクトが強く、分かりやすいフレーズで多くの方に親しまれました。
■ 楽できる筋トレは存在しない
しかし、ひとつ注意点があります。〈筋肉は裏切らない〉はあくまで“上の句”に過ぎないということ。「努力は報われる」と同じような意味で捉えないでほしいのです。どんな物事にも通じることだと思いますが、いくら頑張ったところでやり方が間違っていれば裏切られることはあります。したがって、〈筋肉は裏切らない〉の上の句に、必ず〈裏切らないかどうかはやり方次第〉という下の句が続くと考えてください。実際、世の中には、誤解を招きかねない「筋トレ観」が少なからず存在します。
例えば、筋トレ本や筋トレを指南するインターネット上の動画には、「楽して」「これだけで」「みるみる」という甘い誘い文句が多く使われてきました。
そんなわけがない。これらは惹句に過ぎず、「楽して、簡単に」成果が上がるという考え方は投資詐欺と変わりません。「みんなで筋肉体操」で紹介した方法論は、きっちりと取り組んで効果を出そうというものであり、「楽して」「これだけで」「みるみる」という考え方とは相容れません。おかげさまで、そうした惹句は減ってきていて、いい傾向にあると思いますが、まだまだ「楽して」といったような惹句を掲げた動画の再生回数が多い現状が存在します。
一方、歯を食いしばって大変な思いをすればいいという話でもありません。適切に、そしてできるだけ効率よく行う必要があります。実際、私は1日15分くらいしか筋トレをしません。効率と質を追い求めているからです。
惹句にだまされず、かといってむやみやたらにやればいいというわけでもない。両面において、みなさんにも「筋トレリテラシー」が求められているのだと思います。
■ 回数や器具の重量は「目的」ではない
では、「適切でない筋トレ」とは何か。いくつか具体的に説明していきましょう。
まず、使う器具の重量や、やる回数にこだわり過ぎることは危険です。たしかに、重いバーベルを上げたり、多くの回数をこなせば、達成欲や虚栄心は満たすことができます。しかし本来、重量や回数は「手段」に過ぎないはずです。にもかかわらず、いつの間にかそれ自体が「目的」にすり替わってしまう傾向にあります。
あえて極端な例を紹介すると、1日1万歩のウオーキングを目標に掲げたとして、その目的は心肺持久力を向上させ、身体を健康にすることにあるはずです。ところが、だんだんと歩数自体が目的と化し、小股で歩いたり、ひどい場合だと振動マシンに乗って数を稼いだりする。ここまで極端なことは少ないかもしれませんが、気が付かないうちに、それに近いことを筋トレでもやってしまいがちです。
■ 「ごまかした30回よりもきちんとした10回」を
例えばスクワット。きちんとやれば20回しかできない人でも、腰の下ろし方が浅かったり、あるいは腕を振ったり、しゃがんだ時の反動を利用して弾むといったズルをすれば、50回できる。これこそ、回数そのものが目的となってしまった悪いケースであり、浅いスクワットのことを私は〈浅はかなスクワット〉と呼んでいます。
腕立て伏せも同様です。本来、腕立て伏せは胸が床に着くまでしっかりと「伏せて」上げる動作であるはずです。それなのに、回数ばかりをこなそうとして、深く沈まずにすぐに戻ってしまっては、回数の割に効果が小さい。これでは腕立て伏せに見せかけたものをやっているに過ぎず、腕立て伏せではなく〈腕立て伏せかけ〉です。
深く下ろし切り、上げ切って、動作範囲を最大限に使う。このように「フルレンジ」でやるほうが効率よく高い効果を得られます。ですから、〈ごまかした30回よりもきちんとした10回〉をこなすことが大切なのです。
■ 意外と大切な“下ろす”動作
また、「上げる」ことだけに力点を置きがちですが、下ろす動作をおろそかにするのはよくありません。上げるとともに「しっかり下ろす」ことも重要です。
例えばバーベルを50センチ上げると、筋肉に強い負荷を与えると同時に、上に上げる分の多くのエネルギーを消費することで乳酸を溜め込み、筋肉が張る刺激を生み出します。そして下げることで、50センチの高さから床に落下させた場合の衝撃分のエネルギーを筋肉で受け止める。その結果、筋肉が微細に損傷し、これも筋肉を大きくする重要な負荷となります。つまり、「上げる」と「下ろす」では筋肉への負荷の種類が異なり、両方の刺激を与えることで筋トレの効果はより高まるのです。上げることのほうが達成感が得やすいかもしれませんが、同じく下ろすことも意識し、速やかに上げ、2秒くらいかけて丁寧に下ろすのが筋トレのスタンダードです。
また、意識することなくストンと下ろすと、その衝撃を筋肉ではなく関節で受け止めてしまうことになります。せっかくの落下のエネルギーを、関節に与えて筋肉を肥大化させるために使わないなんて、なんともったいないことでしょう。その上、落下の衝撃は関節に掛かり、けがのリスクが増してしまいます。
例えば、先ほども触れた、下まで勢いよくしゃがんだ反動で上がってくるスクワットでは、しゃがんだ時に膝が曲がり切って靭帯に強い負荷が掛かり、筋トレ効果が下がるばかりでなく、けがする危険性も高まってしまいます。
■ 「100歳からも歩く」
これまでの注意点を踏まえた上で適切な筋トレを始めましょうと言われても、年寄りには無理……。そう思われている方がいるとしたら、答えは断然「ノー」です。高齢者の筋トレ効果を示す研究はいろいろとあり、60~72歳の方が脚の高負荷筋トレを週3回、3カ月間行った結果、脚の筋肉が平均11%も肥大したという報告もあります。この値は若い世代とさほど変わりがない。つまり、手遅れということはないのです。
筋肉は非常に適応能力が高い組織です。一般的に「老化(の程度)を抑えられる」という言い方をしますが、筋肉に限って言えば、老化の速度を緩やかにさせ、老化を抑えられるだけでなく、適切に鍛えれば成長させ、「若返らせる」ことができます。何歳からでも筋肉は強くできるのです。年齢を理由に筋トレしないなんて、これまたこんなにもったいない話はありません。
〈いいんです、今からでもやっていいんです〉
そして、せっかく筋トレを始めるのであれば、人生100年時代を迎えている今、目標は高く、「100歳まで歩く」ではなく「100歳からも歩く」に置きたいところです。そのためには、まず筋肉における「80歳の壁」を乗り越えることを意識してみるのはどうでしょうか。
■ 大事な筋肉ほど衰えやすい
体重を支える筋肉の代表である腿の前側の筋肉、大腿四頭筋の筋肉量は、20~30歳の最大時に比べ80歳の頃に半分程度に減ってしまいます。これを単純に考えると若い頃に片足で床から立ち上がれなかった人が80歳になったら、両足でも難しくなることを意味します。つまり、自活した生活を送るだけの筋力を充分に保てるかどうかは、80歳がひとつのラインになるといえるのです。
また、筋肉の萎縮は30歳くらいから進行し、60歳のあたりで加速するので、80歳の壁を越えるには、60歳が鍵の年齢になるとも考えられるでしょう。いずれにしても、〈今からでもやっていいんです〉に変わりはありません。
高齢者が筋トレをする上でとりわけ意識したい部位は、身体を支える抗重力筋といわれる部位です。大腿四頭筋、お尻の大殿筋、ふくらはぎの外側の腓腹筋と内側のヒラメ筋。また、股関節付近の筋肉で足を振り出す腸腰筋もてきぱき歩く上で重要です。
残念なことに、人間にはこれらの「大事な筋肉ほど衰えやすい」という特徴があります。種としての繁栄のために、次の世代に譲るべくプログラミングされているからかもしれません。しかし人生100年時代、このプログラムに従っていてはQOL(生活の質)は保てません。
■ スクワットとランジ
こうした重要な筋肉を鍛えるのに非常に大切なトレーニングのひとつはスクワット。そしてもうひとつは、大股で前に踏み出し、後ろ足の膝が地面に着くくらいまでしっかりと腰を沈めるランジです。ランジは踏み出す足の大腿四頭筋、大殿筋だけでなく、引き戻す際に後ろ足の腸腰筋にも強く負荷が掛かるので効果的です。
ランジは転倒リスクが高いように思われがちですが、テーブルなどに手を添えながらやれば転ぶことはまずありません。むしろスクワットのほうが、股関節や足首が硬いと重心が後ろに掛かり、後方に転倒しやすい。ランジのように前に踏み出す動きだと、前に倒れそうになったら、人間、自然と足が出ますが、後ろに転びそうになっても、後ろに足は出せないものです。したがって、スクワットを安全と決めつけずに気を付けて行う必要があるといえます。
■ 10回から30回でも十分な効果が
では、何回くらいやればいいのか。強い負荷を掛けるのは大事ですが、2回や3回しかできない負荷では刺激の回数が少なすぎます。強い負荷では行うのが大変ですし、けがのリスクも高い。一方で負荷を小さくして回数を増やす方法は、軽くしすぎると1回あたりの刺激が足りません。時間も掛かってしまいます。研究上では、10回から30回くらいの範囲で筋肉を大きく発達させる十分な効果が得られることが分かっています。このくらいの範囲でしっかり追い込むのがひとつのガイドラインといえます。なお、体感としてのしんどさを分析した我々の研究では10~30回の範囲では20回くらいが一番実践しやすいという結果が出ています。
適切な頻度はケースバイケースですが、筋トレ翌日は回復にあてると考えると、一回一回をしっかりとやりきるのであれば週2、3回でも構わないと思います。
こうして「適切な筋トレ」を学んでみると、老いも若きも関係なく、適切に自らの身体を鍛えて、健康に生きていこうという気力が漲(みなぎ)ってきませんか? そんなあなたに、いま一度前向きなパワーフレーズを贈りたいと思います。
〈筋トレはやろうと思ったら1秒後に始められますよ〉
谷本道哉(たにもとみちや)
順天堂大学先任准教授。1972年生まれ。大阪大学工学部卒、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。国立健康・栄養研究所特別研究員、近畿大学准教授などを経て現職。NHK「みんなで筋肉体操」での超前向きな筋トレ解説が話題に。『学術的に「正しい」若い体のつくり方』など著書多数。
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☘️ヤフコメ❗️ピックアップ☘️
オリンピック選手などを指導しているパーソナルトレーナーなどに取材すると、「ジムで筋トレしている人を見かけると、間違ったフォームでトレーニングしていることが多い」と言います。
最近は、YouTubeで動画を見ながらフォームを真似している人も多くいますが、その場合、自分のフォームを客観的に、かつ全方位で確認することができないため、どうしてもフォームにエラーがでてしまうそう。すると、筋トレしても効果が得られないばかりか、ひどい場合は怪我をしてしまうこともあると言います。
いまは筋トレブームですが、特に高負荷をかける場合は自己流で行わず、プロの指導を受けることが賢明です。
✅ トレーニングは目的や立場でやり方は変わるよね。
アスリートならば追い込んでより筋力や体力をつけるのが目的になるし一般人ならばそこそこの筋力や体力があればいいわけだしね。
高齢者ならば筋力や体力をつけて日常生活を維持できるようにするためだからね。
正しいフォームでやるのは共通しているけれど回数や重量に関しては個人差があると思うね。
やりすぎて免疫力が落ちてしまっては本末転倒だからね。
ちょっとやるだけでも継続すればかなり違うし効果はあると思われるよね。
そして継続していく上で重量なり回数なりを上げていけばいいんじゃないのかね。
✅ その道を生業にしている身として、この記事に書かれている事は良い面と悪い面があるかなと。
大事なのは継続すること。
無理なく継続出来る事が大事。
昨日はこれくらいできたけど、今日はこれしか出来なかった。それで良いんですよね。頑張る事は良い事ですが、頑張りすぎて次の日のモチベーションが下がり、いつの間にか遠のいてしまう。これでは意味がありません。体にはバイオリズムがあるので、良い日もあれば悪い日もありますね。そこはできない日があっても許してあげて、次の日のモチベーションを下げないようにしてあげた方が継続出来るかなと思います。