「強炭酸水飲むと仕事に集中できる」の科学的根拠
✍️記事要約
「強炭酸水飲むと仕事に集中できる」の科学的根拠
アサヒ飲料が明らかに、ビジネスへの好影響
何となく疲れたり、もやもやしたりしてどうも仕事がはかどらない……。そんなとき、気分をスカッとさせるために強炭酸水に手を伸ばすビジネスパーソンは多いかもしれない。強炭酸水の刺激が気分転換を促すことは、経験則で何となくわかっている。それはただの気のせいなのか、それとも――。これを科学的に明らかにした実験がある。研究者も驚いたという、実験結果を紹介しよう。
■強炭酸水を飲むことで脳波が変化、知的生産性に影響が
「私は科学者として、何事も客観的に裏付けられていないと信用できないタイプ。『炭酸水を飲んで、気分爽快!』と訴えるテレビCMを見ても、主観的な印象だけでは、はたして本当なのかどうか疑わしいと思っていました。しかし、いざ実験してみてビックリ。炭酸水、とくに強炭酸水を飲む前後で、脳波の数値が変わり、知的生産性に影響を与えることがわかったんです」
このように明かしてくれたのは、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科の満倉靖恵教授だ。満倉教授は、生体信号や機械学習、数学的モデリングを使って、人間の感情や感性を科学的に分析してきた多数の実績を持つ研究者。これまでの研究で、「好き度」「ストレス度」「眠気度」「沈静度」といった指標で感性を定量化してきた。脳波を測定することで、なぜそれらの感性を測ることができるのか。
「ある感性が強くなると一部のホルモンに変化が起きます。そこで特定のホルモンの状態と脳波をタグ付け。長年の研究成果により、最終的には脳波を調べるだけで、さまざまな感性の強さを推定できるようになりました」
今回、満倉教授はアサヒ飲料と共同で、電通サイエンスジャムの協力の下、炭酸水を飲んだ後に感性がどう変化したのか、脳波解析(※1)によって定量化する実験を行った。
■強炭酸水を飲むと、『集中度』が「1.18倍」になる
まずは実験の概要を紹介しよう。今回の被験者は、20~50代の会社員52名。まずプレ実験として、水を飲む前と飲んだ後の脳波を測定して、『集中度』『覚醒度』『爽快度』『前向き度』など複数の感性指標で数値の変化を調べた。
さらに、炭酸水(強炭酸水、弱炭酸水のいずれか)を100ml飲んでもらい、その前後の感性指標も測定した。これによって、「何も飲んでいない安静時」「水を飲んだ後」「強炭酸水を飲んだ後」「弱炭酸水を飲んだ後」の4つの状態における感性のデータを取得し、各状態を比較することが可能になる。
実験の結果、目を引いたのは『集中度』の変化だ。水を飲んだ後は、何も飲んでいない安静時と比べて、『集中度』は1.01倍になった。『集中度』が同じ場合は1.0倍なので、水を飲んでも飲まなくても、『集中度』はほとんど変わらなかったと解釈できる。それに対して、強炭酸水を飲んだ後は、安静時と比較して1.18倍に上昇した。
出典:「脳波解析を用いた炭酸水飲用による感性変動の取得」(第76回日本栄養・食糧学会中部支部大会、2019年)
1.18倍といわれても、ぴんとこないという人は多いかもしれない。この数値をどう読み解けばいいのか。満倉教授の解説は次のとおりだ。
「トランプタワーを完成させるという課題を行い、『集中度』を測りました。仮に、その作業に1時間ほどかかるとしましょう。『集中度』が1.18倍になれば、同じ作業を約50分で終えられます。強炭酸水を飲んだことで、作業時間が約6分の5になるレベルで『集中度』が高まるというわけです」
■強炭酸水を飲むと、入浴するよりも『覚醒度』が上がる
さらに衝撃的だったのが、『覚醒度』(※2)だ。『覚醒度』は、作業中のやる気を示す感性指標。数値が高いほど、同じ作業を続けても退屈さや眠気を感じない。今回の実験では、飲用前後だけではなく飲用中の脳波も測定した。
結果、水を飲んでいる最中の『覚醒度』は、安静時と比べて2.22倍になった。さらに、強炭酸水を飲んでいる最中の『覚醒度』は、安静時と比べてなんと2.90倍(※3)。水を飲むだけでも『覚醒度』はぐっと上がるが、それが強炭酸水ならばさらに強く覚醒することがわかった。
出典:「脳波解析を用いた炭酸水飲用による感性変動の取得」(第76回日本栄養・食糧学会中部支部大会、2019年)
「日常生活のシーンで例えると、私たちのこれまでの実験結果から、歯磨きをしたときの『覚醒度』は2倍弱、お風呂に入ったときの『覚醒度』が2倍強です。また、これは非日常ですが、最大の声量で3秒間絶叫し続けたときの『覚醒度』が約2.5倍。つまり、これらの行動を取るよりも、強炭酸水を飲んだほうが『覚醒度』が上がるということです。強炭酸水にここまで覚醒効果があるとはまったく想像していなかったので、この結果には本当に驚きました」
まとめると、今回の実験では、「強炭酸水を飲んだ後は、何も飲んでいないときや水を飲んだ後と比べて、『集中度』が高まる」「強炭酸水を飲んでいる最中も、何も飲んでいないときや水を飲んでいる最中と比べて、『覚醒度』が高まる」という現象が確認できた。つい気が散ってしまうときやボーッとしてしまうときに強炭酸水を飲むと目の前の仕事に集中できる感覚がするのは、ただの“気のせい”ではなかったのだ。
強炭酸水で『集中度』や『覚醒度』が高まることは実験で確認できた。気になるのは、そのメカニズムだ。
「炭酸水を飲むことで血液の成分の動態が変わり、それが視床下部に影響を与えてホルモン分泌が変化していると考えられます。分泌されるホルモンが変われば、感情や感性が変わります。その変化が脳波にも表れているのです」
■疲れたときやイラッとしたときに、一口飲むのも有効
仕事中に、入浴したり全力で絶叫したりすることはなかなかできないが、強炭酸水なら周囲の目を気にすることなく飲める。ゆっくりリフレッシュしている余裕などない忙しいビジネスパーソンにとって、強炭酸水は実に心強い味方だ。さらにパフォーマンスを高めるために、上手な飲み方はないだろうか。
「朝から働き詰めで疲れてくると、『集中度』や『覚醒度』が下がり、仕事の効率は落ちていきます。ですから、仕事中は手の届くところに強炭酸水を置いておき、疲れやイライラを感じたときにその都度飲むといいでしょう。実験では100ml飲んでもらいましたが、一口飲むだけでも集中や覚醒の効果は期待できます。一工夫として、柑橘系の果物などを搾って強炭酸水に垂らすのも面白いですね。自分の好きな香りをうまく使って気分転換するのは、手軽でお勧めです」
仕事で求められる『集中度』と『覚醒度』。強炭酸水を飲むことで、それらを手軽にアップさせることができる。満倉教授も「今回の実験では手が回りませんでしたが、強炭酸水にはほかの感性指標を高める効果があるかもしれません。今後も研究を続けていきます」と期待を寄せる。強炭酸水には、知られざる可能性がまだまだ秘められていそうだ。
※1 脳波解析:「感性アナライザ」を使用して、脳波を測定し、「覚醒度」、「集中度」を比較。「感性アナライザ」は慶應義塾大学 満倉靖恵 教授と(株)電通サイエンスジャムが共同開発した、人の脳波から感性を簡易に分析する技術。
※2 「覚醒度」は、数値が高いほど眠気を感じにくい状態
※3 出典:「脳波解析を用いた炭酸水飲用による感性変動の取得」(第76回日本栄養・食糧学会中部支部大会、2019年)
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