2年も品薄が続いたPS5 要因考察
✍️記事要約
抽選販売が続くなど、異例の対応が続いたソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」が、ここにきてようやく通常の販売に戻りつつあります。なぜPS5は、2年以上も品不足に苦しんだのでしょうか。三つのポイントを挙げて考察します。
◇世界で3000万台売っても“品薄”
PS5は、世界で1億1000万台以上を売ったPS4の後継機です。高性能ながら価格設定も抑えており、新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり需要」も加わって、発売前から注目を集めました。
発売前の予約受付時、一部のネット販売では、本来の価格の10倍にあたる「50万円」で売り出れ、間違えて注文する人が出るほどでした。
品不足は、高い需要に対して、供給が足りないと発生します。しかし人気を見越して商品を作りすぎると、在庫リスクにもなる上、商品が売れ残っているように見えます。いかに需要を読んで、適切な商品を供給できるかです。PS5は、5万円以上する高額商品にもかかわらず、約2年で世界累計3000万台以上を出荷したものの、それでも抽選販売をするほど“品薄”になっていたわけです。
今回の品不足には、複合的な要因がありますが、状況が立て続けに悪く出たのも大きいでしょう。三つの要因にまとめてみました。
◇日米欧同時発売が裏目か
PS5が2年間も品不足になった理由の一つ目は、発売するとき(2020年11月)、日米欧で同時に出したことで、それが裏目になる流れになったことです。もともとゲーム機は、発売時に極端に需要が集中する傾向にあります。日米欧で出せば、各地の需要を見て、出荷台数のバランス調整を取るだけでも大変です。
それでもソニーが同時発売に踏み切ったのは、PS4の発売時に受けた批判の影響があります。
PS4のときは、まずゲーム市場の主戦場である米欧で先行発売し、数カ月遅れで日本にお目見えしました。そのためか、PS4は飛躍的入手しやすかった一方で、「日本市場の軽視」という関係者やファンから不満が出ました。
PS5の発売直前、SIEのジム・ライアン社長がインタビューで以下のように答えています。
ーー以前のインタビューで、PS4の日本の発売時期を遅らせたことを後悔していました。その場で「PS5は世界で年末商戦期に発売するつもり」と言わなかったのはなぜですか。
それは、最終的な決定がされていなかったからです。インタビューでも話した通り、私自身はPS5を日米同時発売をしたいと思っていましたが、決定を100%にするには、さまざまなピース(かけら)がはまらないとダメでした。だから、そのときは言えなかったのです。
PS4の発売時にも欧米では、半年以上品不足が発生しました。PS5の出荷計画は、PS4に準じている流れですが、先行発売のエリアに日本が加わると、供給が大変になるのは、予想できたはずです。
◇流通の混乱・増産できない誤算
それでもソニーは、旺盛な需要に対しても、即座の増産で対応できる自信があったからこそ、日米欧同時発売に踏み切ったといえます。アジア地域の発売も、スムーズなものでした。
しかし、そこに世界的な物流の混乱があるところまでは、さすがに予想外だったでしょう。その上、ウクライナのロシア侵攻までありました。取材をすると、製造した商品が予定通りに届かない……ということもあったようです。
ソニーは、PS5の出荷計画もなかなか動かさなかったように、増産を最後まであきらめなかったようですが、結果として2021年度のPS5の出荷数は、計画に対して8割弱にとどまりました。このPS5のスムーズな増産ができなかったことこそ、最大の誤算ではないでしょうか。世界情勢がかんでいるので「仕方ない」と言われるとその通りですが、世界中での機会損失を考えると、とんでもない額になりそうです。
◇「転売」横行の流れに
三つ目は、品不足を加速させ、ゲームファンの怒りをかった「転売」の存在です。裏付けとなるデータはないものの、多くのPS5がネットで異様な高額で売り出されていたことに、平常心ではいられなかったはずです。こうした状況がメディアで繰り返し報じられ、PS5が高値で取引されていることが広く世間に知られるようになりました。
そして今や個人が気軽に商品を売買できるフリマアプリがあります。「PS5の転売はもうかる」という情報は、ゲームファン以外の人たちにとってどう感じるかは想像できるはずです。店舗の抽選販売でも、PS5を手元に置きたいゲームファンと、そうでない人たちを見分けるのは大変です。こうしてPS5を希望小売価格で入手するのは、一層難しくなりました。
ソニー側も、「フリマアプリ」の運営側に、PS5の高額転売を防止してほしいという打診をしますが、要望はスルーされました。また、転売を防止するために、販売店向けに「開封済」と書かれたシールを配布するなどして、転売を目的にした人が新品として売れないようにしました。
しかし、最も効果的な対策は、結局のところ、PS5の台数を増やすことにつきます。しかしどうしても時間がかかる話で、物流の混乱、物価高もあります。
またPS4の販売実績では、日本より欧米の市場が圧倒的に大きく、ゲーム機の販売動向を見た時、主戦場である米国でのシェア争いが注視されます。ゲームはビジネスですから、イメージ作りも重要で、どうしても日本が「後回し」になる実情はあったでしょう。それでも、PS5のスムーズな増産ができていたら、日本への供給量も増えていたし、転売も緩和できていたでしょう。
◇「当たり前」のありがたさ
人気のゲーム機は、旺盛な需要があり、年間で1000万台以上売れるのは当たり前です。一方で供給のバランスは繊細です。部材調達、生産、流通が密接に関連しており、世界をまたにかけているため、供給不足になりやすいのです。コントローラーや、製造を終了したゲーム機の市場価格が上がることもあります。
そして空輸などの高額なコストをかけるなどしたメーカー側の必至の努力は、消費者が感じ取ることはなかなかできません。そして2年間も品不足に苦しんだということは、裏返すとその解決のために、メーカー側も同じ時間だけ、問題解決のための努力をしていたというです。
今月から「PS5が普通に買えた」という声もよく見るようになりました。この「当たり前」は微妙なバランスの上で成り立っていることを実感させられますし、ありがたさを感じるところです。そしてPS5がどこまで出荷数を積み上げられるのか注目です。