「体育会系は就職に強い」神話の崩壊 就活の最新事情とは
✍️記事要約
就職に強いとされる体育会系学生。学生はもちろん、企業の担当者にも「採用するなら体育会系」と考える人は多いかもしれない。しかし、雇用や働き方が激変する現代において“体育会系神話”はまだ機能するのか。神話ができた過程や展望について『就職と体育会系神話』(青弓社)の著者であり京都先端科学大学健康医療学部准教授の束原文郎氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)
● アメフトが支えた 体育会系神話の最盛期
「体育会系は就職に強い」という認識は多くの人が、なんとなく持っているだろう。しかし、それはどのような過程を経て、われわれに刷り込まれてきたのか。束原氏は次のように話す。
「体育会系学生が就職において望ましい資質を備えている、という神話は大正から昭和初期には確立していました。当時の大学進学率は約1~3%で、そのなかでも運動部に所属している学生は多く見積もっても1割程度。該当人口の0.1%ほどしかいない彼らは、知力も体力も兼ね備えたスーパーエリートだったのです。また、当時の公衆衛生的な観点からも、身体の健康が重視され、体育会系の学生はその基準にもっとも合致していたわけです」
強壮で健康な身体をスポーツで育み、また部内で社交性や折衝能力を鍛えた体育会系学生は最良の人材イメージであると戦前では認識されていたのだ。
逆に文系(特に文学部)でスポーツを嫌う学生は「病弱で左翼的過激思想に耽溺(たんでき)している」と見なされ、企業側からは忌避されていた。
「こうして、体育会系神話は成立していきましたが、それが最盛期を迎えるのは1980年代末から1990年代初頭とみています。その頃には進学率が大幅に向上し、大卒者のエリート性は低減しましたが、企業スポーツ文化の隆盛やリクルーター制度により、バブル崩壊頃まで体育会系学生は就職に有利でした」
例えば当時、新しい企業スポーツとしてアメリカンフットボールが注目され、次々とチームが創設された。当時のアメフトは野球やサッカーに比べ、まだマイナースポーツであり、国公立大や名だたる優良私学にしか強いチームがなかった。その中で、特にリクルートなどでは、高偏差値大学出身者の確保と企業スポーツ強化の観点から、アメフト部の新卒者を意図的に集めていたという。
● 体育会系学生で 広がる大学格差
ただ、バブル崩壊から現在にかけて、その神話は変容していると束原氏は述べる。すべての体育会系学生が有利というわけではなく、「エリート体育会系とノンエリート体育会系に分化し、格差が生じている」というのだ。
「2000年前後から急速に18歳人口の減少が始まったことで、それまで新増設を繰り返し、キャパシティを拡大していた国内の私立大学の多くは経営難に陥り、2010年代に入ると実に40%の大学が定員割れを起こすようになりました。特に中堅以下の私学では、その傾向が顕著でした。経営に窮した中小私立大学は学力が不足している学生をスポーツ推薦制度によって入学させ、なんとかして定員を確保しようと努めるようになったのです。拙著ではこの状況について、たしかに全体の学生アスリート人口は増加したが、今まで通り優良人材とみなされる『伝統的で威信が高い(高偏差値)大学出身のエリート体育会系学生』と『中堅以下大学のノンエリート体育会系学生』に分化したのだ、と指摘しました」
エリート体育会系は「今でも若干就職に有利」だという。その背景にあるのが、日本の特殊な雇用慣行だ。
欧米では働き手の職務内容をあらかじめ明確に定めて雇用する「ジョブ型雇用」が一般的であるのに対し、日本企業では今でも新卒を一括採用して入社後に仕事を割り当てる「メンバーシップ型雇用」が主流だ。
そのため、企業が採用時に求めるのは、どんな環境でも対応できる人材である。
「どの部署に配属しても適応できる人材を求める企業にとっての評価ポイントは『地頭の良さ』『地道に継続して学習する能力』『要領の良さ』などです。新卒一括採用の慣行の中では,採用側は限られたスケジュールの中で情報不足のまま採否を決めなければならず、何度も面接を繰り返して人物や適性を見極めるという地道な作業の代わりに、『高偏差値大学(地頭がありそう)』や『体育会系(継続する力、根性がありそう)』といったある種の“シグナル”を選考に利用してしまう。結果的に高偏差値大学の体育会系=エリート体育会系が有利な状況、つまり優良大学からの方が人気企業に就職しやすい状況が続いているという印象があります。一方のノンエリート体育会系は大学にとって財務上の安定に寄与し、大学スポーツが新たな展開をむかえる(競技横断型大学スポーツ協会UNIVASの設立など)改革のきっかけにはなりましたが、就職に際して大企業社員のイスまでは用意されなかった、ということになります」
メンバーシップ型かつ新卒一括採用の場合、企業は早期にメンバーを囲い込む必要に迫られる。そうした際に、エリート体育会系はわかりやすい指標となるのだろう。
● 新卒採用で人気が高い 新興スポーツの経験者
近年では日本企業でも、ジョブ型雇用を導入する企業も増えつつある。富士通やNTTなどではすでに管理職にジョブ型雇用を適用しており、1月10日には日立製作所も全社員に適用する方針を出した。
このような雇用の変化は、既存の体育会系神話にどのような影響をもたらすのだろうか。
「神話のさらなる変化を期待したいです。現在の所属(学歴)に頼るメンバーシップ型では、採用時に大学ランクが先行しがちで、アスリートとしての経験や学業面の成績などが適切に評価されていません。GPA(学業評価)の重視に加え、大学のランクを問わず、アスリートとしての実力(ある対象に情熱を傾け、熟達する力)やマネジメント能力などがもっと評価されるようになればいいと思います」
本格的なジョブ型導入は全国的にはまだなされてはいないが、近年でも体育会系の就職に変化が起きているという。
「これまで比較的有利だったのは、男性アスリートでした。しかし、2021年3月卒のデータでは、体育会系学生の中で人気企業への内定獲得率が男女で逆転し、女性アスリートのほうが評価され始めています。実際、女性アスリートのほうがGPA(学業成績)は高い傾向にあります。近年のさまざまな変化によって性別に対する企業側のバイアスが解け、男性的なイメージが強い体育会系の就職でも変化が起きていることは歓迎すべきです。また、統計的にはレギュラーの学生ではなく、サブメンバーの方が人気企業からの内定獲得率が高いと出ます。レギュラーにはスポーツ推薦が多く含まれ、結果として学業がおろそかになりがちな学生アスリートが人気企業に進みづらくなっているものと危惧されます」
レギュラーメンバーよりサブメンバーのほうが明らかにGPAの成績が高いと束原氏は指摘する。大学名やレギュラーという肩書ではなく、学業面などが評価されるようになってきているのだ。
「レギュラーメンバーよりも、サブメンバーのほうが良い企業に入社するのは皮肉な気もしますが、現実的にプロアスリートなどになれなければ、大学スポーツで花咲いても生きていくのは難しいということです。それが野球やサッカーなどのメジャースポーツであってもです。もっと言えば『俺は監督や先輩から推薦してもらって就職できる』というメンタリティの学生は非常に厳しい。だからこそ、キャリアを見据えて学業や英語、ITスキルを身に付ける生き方をしないといけないし、われわれ大学側もそのような場所と制度を作らなければなりません。また、高校までの指導者や顧問も、このようなことを念頭に指導したり、進路相談にのってあげたりしてほしいですね」
そんななかで現在ではラクロスなど新興スポーツに取り組んでいた学生の評価の高さが目立っているという。
「ラクロスなど日本の大学スポーツの文脈で比較的新しいマイナースポーツでは、練習場所もなければ指導者も少ない。その中で学生自身がいかに試行錯誤したかがクラブの強化やアスリートの成長にとっては重要になり、そうした試行錯誤によって獲得された何かが採用担当者の目に留まる可能性を高めるのかもしれません。実際に、直近の調査でもラクロス経験者は男女ともに人気企業からの内定獲得率が学生アスリート平均を有意に上回っています。戦略的に、そのような新興スポーツを大学で始めるのもよいかもしれません」
時代の潮流がめまぐるしく変化する中、体育会系神話にも良い変化がもたらされることを期待したい。
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☘️ヤフコメ❗️ピックアップ☘️
組織の命令とあらば、自分の意思とは無関係に火の中水の中飛び込める人間が重用されただけ。
アメフトや野球が優遇されたのはチームプレイだから。
自分がどんなに打ちたくても、監督の指令ならバントできる人材。
だから体育会でもテニスのような個人技はやや評価が劣るが、体育会特有の無意味なしごきに辞めずに続けたという点では有利になる。
この先も、特に営業のような部署では社畜のニーズは一定数あるだろう。
けど当たり前だが、脳筋に技術開発はできない。
今の日本に欠けてるのは営業力ではなく新しいものを生み出す力。
体育会神話の変化とか正直どうでもいいし、いまだにそんなところを重視してる会社は生き残れない。
✅ 体育会系は社会の倫理より内輪の理屈を優先させる傾向がある。
しかし今はコンプライアンスや持続可能性が重視される社会となった。
体育会系はきちんと選考しないとハイリスク人材を抱え込むだけになる。
✅ 「体育会系は就職に強い」だなんて全くバカげた話だと私は前から思っていたけど、今まで体質的に体育会系を採用すればよしとしてきた会社は生産面で肝心な事が何もわからないままに人を採用してきたのだろう。