トラス英首相「屈辱」の辞任表明
✍️記事要約
トラス英首相は、自身の目玉政策だった大型減税策がほぼ全面撤回に追い込まれるという「屈辱」(英紙ガーディアン)の中で辞任を表明した。
今回の辞任劇は、冬の本格化を前に国民がエネルギー価格高騰やインフレに苦しむ中、課題に対処できないままリーダーが去るという政治の無力ぶりを浮き彫りにした。
「間違いだと思ったのは私だけではないだろう」。バイデン米大統領は15日、トラス氏が撤回した大型減税策についてそう語った。米国の大統領が、緊密な同盟国の英国の首相について「これほど批判するのは異例」(英BBC放送)と伝えられた。
トラス氏の減税策の柱の一つは、「法人税率引き上げ凍結」など企業や富裕層を意識した内容だった。富裕層が受ける恩恵はやがて中間層や低所得者層にも行き渡るという考えで、バイデン氏はこれについて「富裕層への減税は、私は反対だった」と述べた。9月27日にも国際通貨基金(IMF)が「格差を広げる可能性が高い」と再考を促す声明を出していた。与党・保守党は今回、こうした国際的な懸念の広がりを予測できなかった。
結果的に、財源の不明確な減税策は市場の不信感を招き、英国債やポンドが下落した。英中央銀行はインフレ対策で金融引き締めを続ける中、金融緩和につながる長期国債の買い支えを実施せざるをえなくなるなど迷走した。
ただ、今回の混乱はトラス氏のみに責任があるわけではない。トラス氏はジョンソン前首相の後任を決める7~9月の保守党党首選の段階で、自身が首相になれば大型減税を推進する方針を公約に掲げていた。一方、決選投票でトラス氏と争ったスナク元財務相は財政再建を重視する立場から、有権者に受けのいいトラス氏の減税公約を「おとぎ話だ」と批判しており、党所属議員や一般党員にとっては「選択肢」があったのも事実だ。
とはいえ、物価高に苦しむ一般党員が目の前の「減税」の響きに引かれたのはやむを得ない面もある。トラス氏はその財源について明確に説明せず、いずれ経済成長によって借金を返済できるとの考えを示した。これにはスナク氏のほか、最大野党・労働党も「無責任」と批判を続けていた。今回の混乱は、その懸念が当たってしまった形だ。
トラス氏の辞任を受け、保守党は来週にも党首選を行う見通しだ。現行の規則では、党所属の下院議員が候補者を2人まで絞り込み、一般党員による決選投票で勝者を決めるが、この方式だと新党首選出まで2カ月程度かかる可能性がある。政治の空白を最小化するため、今回は期間を短縮する措置をとるなどして、早期に新党首を選ぶ公算が大きい。
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☘️ヤフコメ❗️ピックアップ☘️
✅ 最も短命に終わったイギリス首相は1827年のジョージ・カニング(保守党)の5か月とされるが、トラス首相はその記録を不名誉な形で塗り替えた。気になるのはキャメロン首相(2010-16年)の在任約2000日以降、メイ首相、ジョンソン首相の在任期間がそれぞれ約1000日、そして今回はわずか45日と、内閣の寿命が短くなっていることだ。
イタリアもそうだが(英エコノミスト誌は「ブリタリー」と称している)、主要国での強い政治不信は、安定した多数派形成が難しい状況を生み出している。多数派形成が難しいと各選挙で前のめりになり、トラス政権のような顛末を迎えることになり、さらに多数派形成を難しくするという悪循環に陥ることになる。こうした負の連鎖は、めぐりめぐって、トランプのアメリカやトルコのエルドアン政権のように、国際情勢を不安定なものとする。こうした悪循環はいつ止むことになるだろうか。
✅ トラス英首相が退陣したが支持率一桁で市場が混乱しては自然の流れだ。だが、減税は保守党の党首選挙の公約で多数の人が支持したはず。為替や国債市場が大混乱するほど無謀な公約ならば、党首選の段階で選ばれること自体が不思議に思う。
英国はインフレが約10%と深刻で金融引き締めと景気対策をどうバランスをとるか舵取りが難しい。経済に精通したリーダーシップのある人が次の首相に相応しいが、日本と同様に人材不足の感は否めない。
さらにウクライナ問題など西側が結束して対処すべき時期に英国の政治的混乱は由々しき自体だ。一日でも早く次なるリーダーを選び難局を乗り切ってほしい。