「ぬるい職場」と「心理的安全性のある職場」の違いとは
✍️記事要約
創業9年目で売上300億円と、急成長を遂げている家電メーカー、アンカー・ジャパン。そのトップに立つのは、27歳入社→33歳アンカーグループ最年少役員→34歳でアンカー・ジャパンCEOに就任と、自身も猛スピードで変化し続けてきた、猿渡歩(えんど・あゆむ)氏だ。「大企業に入れば一生安泰」という常識が崩れた現代、個人の市場価値を高めるためには「1位にチャレンジする思考法」が必要だと猿渡氏は語る。そんな彼が牽引してきたアンカー・ジャパンの急成長の秘密が詰まった白熱の処女作『1位思考──後発でも圧倒的速さで成長できるシンプルな習慣』が発売たちまち話題となっている。そこで、本書で触れられなかった、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みを猿渡氏にぶつける特別企画がスタートした。第3回目は、「若手社員の育成」について、教えてもらった。
■「ぬるい職場」と「心理的安全性のある職場」の違い
──「パワハラと訴えられるんじゃないかと怖くて、強く言えない」という管理職の声をよく耳にします。
とはいえ、粘って仕事をやりきる経験をしないと、ビジネスパーソンとしてはなかなか成長できないですよね。猿渡さんは、若手社員をどのように導くといいと思いますか?
猿渡歩(以下、猿渡):私は、比較的ストレートに言いたいことを言ってしまう性格なんですけど(笑)。
──あ、そうなんですね(笑)。
猿渡:企業が成長し続けるには、結果を出していない人に対し指摘したり、必要あらば人材の配置転換も大胆にやるべきだと思っています。さもないと結果を出している人が不満に思ってしまい、逆に公平ではないなと。
仕事環境において心理的安全性はとても重要ですが、「ぬるい職場」と「心理的安全性のある職場」は違うと思っています。
緊張感がありすぎて疲れてしまうのも問題ですが、「ミスっても仕方ない」「業績が悪くてもまあしょうがない」といった、ただのぬるい職場では売上は伸びない。
上司や同僚が「指摘しない」というのは、相手に興味がないことに近いと思うんです。
──指摘しない≒興味がない。なるほど。言われてみれば。
猿渡:Amazonのリーダーシップ・プリンシプルの1つに、「Have Backbone; Disagree and Commit」という項目があります。私のとても好きな言葉です。
リーダーは同意できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません。たとえそうすることが面倒で労力を要することであっても、例外はありません。リーダーは、信念を持ち、容易にあきらめません。安易に妥協して馴れ合うことはしません。しかし、いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます。
(『Amazonのリーダーシップ・プリンシプル』より抜粋)
反対意見を言えるのは心理的安全性がある、つまり優れた関係性である裏返しです。
そして最後の一文も大事で、決定後はコミットする。
仕事に限らず何事も、決定事項にずっと文句を言っていても何も進まないので。
──「全面的にコミット」するためにも、疑問点や反対意見をしっかりぶつける。そしてそれができるのは、心理的安全性のある職場だからこそ、なんですね。なるほど。
■「悔しい」という気持ちを持って仕事しているか?
──上司に「なんでこれできなかったの?」と詰められて、メンタルがやられた……という若手社員の話もよく聞くのですが、猿渡さんは、若手を成長させるために何が大事だと思いますか?
猿渡:できなかったが原因がどこにあるのか、次どうすればできるようになるかという言い方をするようにしています。
きちんと原因分析をしないと、同じミスを繰り返す可能性が高い。
ケアレスミスの場合は特にですが、ミス自体よりも同じミスをしないようにどうするか考えるほうが大事だなと。
人は「怒られたくない」という気持ちが強いと思いますが、普段から適度な緊張感がないと、大きなトラブルが発生したときに踏ん張れないし、個人の成長も遅くなる。
そして、一度のミスで出世街道から外れるような評価体系の企業も、同様に成長は遅くなると思います。
──ちなみに、猿渡さんは、怒られることに関しては何も気にしないですか?
猿渡:私は負けず嫌いなので、怒られるのは全く好きじゃないです(笑)。
新卒のときは自分がつくった提案書に対し、上司からの赤入れが多すぎて、最終版では原型を留めていなかったこともあります。
あまりにも価値を出せなくて落ち込みましたが、同時に「次は絶対に赤入れゼロにしてやる」ぐらいの気概でやっていました。
──仕事で失敗しても、上司に怒られても、そこで抱いた「悔しい」という気持ちをエネルギーに変えられたらいいですよね。
猿渡:そうですね。『1位思考』にもいくつか学生時代のエピソードを書きましたが、「悔しい」という気持ちは、成長において大事だと思います。
──社員に対して、そのような考え方を伝えたりすることはありますか?
猿渡:結果を出せなかった時に「悔しいですか」というのは、社員に尋ねたことはあります。
スポーツでも同じですが、本気でやったからこそ、悔しいと思えるもの。
悔しいと思えないなら自分なりの限界でやっていない可能性が高い。
どんなに強いチームでも負けることはありますし、大事なのは、過去から学んで未来に活かせるかどうか。
勝ったときよりも負けたときのほうが、次勝つための学びは多いと思います。
■「1%にこだわる1人」をつくるのは難しい
──『1位思考』には、アンカーグループのバリューの1つである、「Growth(グロース)=共に成長しよう」に合った人を採用する、と書かれていました。「共に成長しよう」という空気感が満ちた環境で働くことは、若手社員にもいい影響をもたらしていると感じますか?
猿渡:仕事ぶりは伝播しますからね。周囲に「成長したい」という価値観を持ち、実際に成長している人がたくさんいると、努力するのが当たり前になる。
99.5%まで完成した仕事の、残り0.5%をやりきろうという人たちに囲まれていれば、自然と、仕事をやりきる意識が身につきます。
意志を保つには、環境が非常に大事です。
逆に言えば、リーダーの仕事とは、環境を整備すること、とも言えるかもしれません。
『1位思考』には、組織に習慣を定着させるための解決策を凝縮しています。組織マネジメントや人材育成で悩む人にも、参考にしていただけたら嬉しいですね。
──ありがとうございます。とても勉強になりました。「1%にこだわる習慣」、書籍に書かれていた内容もふまえて、実践してみます!
(本稿は『1位思考』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)