DeNA戦力外→アメリカ最高峰の独立リーグで打率3割超え、乙坂智30歳が振り返る
✍️記事要約
「動かないと景色は変わらないんで。まあ、とにかく情熱ですよね」
軽い調子の口調ではあったが、それとは裏腹に真剣な表情で乙坂智は言った。
元横浜DeNAベイスターズの外野手であり、過去2シーズンにわたり、メキシカンリーグ、ベネズエラウィンターリーグ、そして米独立リーグでプレーをしてきた乙坂。異国での奮闘の日々。すべては、夢であるMLBのチームに入団するためだ。
「そんな簡単なことじゃないとは覚悟していたし、依然として壁は厚いし、障害も多い。けど、諦めることなく今やれることに向き合っていくしかないんです」
■ MLBへの人生で初めて変化球で押し込まれる
一昨年の2022年シーズンは、メキシコとベネズエラでプレーし、両リーグ通算で128試合に出場し176安打、3本塁打、打率.354、41打点、41盗塁を記録した。この成績が評価され、翌2023年シーズンは、米独立リーグのアトランティックリーグ(ATLL)に所属するヨーク・レボリューションに入団をした。4月から9月にかけて開催されるATLLは、数ある米独立リーグの中で最もレベルが高く、またMLBが支援するパートナーリーグということもり、MLB各球団のマイナーリーグに所属していない選手たちからすれば、メジャーへのチャンスを掴むことのできる最前線だといえる。
「ATLLからMLBのマイナー契約を勝ち取る選手は多くいると聞いていましたし、ヨークからオファーがあったときは、選択肢として、これはもう行くしかないという感じでしたね」
好機を窺う猛者たちとの戦い。実際にグラウンドに立つとレベルの高さを肌で感じた。
「メジャー経験者やMLB予備軍がそこかしこにいるので、アメリカはやっぱりすごいなって素直に思いましたよ。特にピッチャーはいい選手が多かったですね。100マイル(約161キロ)の真っすぐやツーシームを投げるピッチャーはいますし、カットボールでも95マイル(約153キロ)とか、人生で初めて変化球で押し込まれる経験をしましたね」
■ 序盤は好調も…
それでも乙坂は初出場から打撃が好調で、6試合で打率.480、7打点、OPS1.159という好スタートを切った。
「アメリカを意識したオフの過ごし方や、過去NPBで対戦した外国人投手をイメージしてのトレーニングがハマりましたね。また、気持ちの面でも、MLBのスカウトが見ている可能性が高いですし『いいプレーでアピールするぞ! 』ってモチベーションは高かったです」
■ 10キロぐらい体重が落ちた
だが、いい時期は長くは続かず、成績は下降線を描くようになる。大きな原因は、野球以外の環境面の厳しさにあった。それは前年に経験した中南米以上のものだったという。
「待遇面は中南米よりも劣りましたね。食事はミールマネーが出るにせよ、物価高の影響で朝食でさえ3000円ぐらい掛かりますし、遠征先のホテルも自腹なので月に4~5回泊まると月給を超えてしまう。だから自炊するようになりました。あとは移動ですよね。メキシコやベネズエラだったら長くてもバス移動は10時間ぐらいなんですけど、例えばヨークのあるペンシルベニア州からサウスカロライナ州への遠征だとバスで14~15時間。しかも到着してすぐに着替えて試合の準備ですからね。また気候もペンシルベニアが気温8℃だったらサウスカロライナは32℃とか。体力的にも精神的にもタフじゃないと環境に食われてしまう。僕はアメリカにいる時、ひどいときは10キロぐらい体重が落ちましたからね」
■ 自分をだましていた
試合スケジュールは、13日間でダブルヘッダーを入れて15連戦もあれば、シーズン終わりには21連戦もあったという。大概のことは中南米で経験していたつもりだったが、衣食住を満足に得られない独立リーグの過酷な生活は、心身を否が応でも蝕んだ。
「まあでも条件は皆一緒ですからね。そこから這い上がっていくしかない。どうやって気持ちを保っていたか? 僕の表現だと“ぼかす”っていうか、自分をだましていましたよね。『もう全然余裕、イケる、イケる! 』って自分に言い聞かせていました」
■ 熱湯あちあち打法
そう言うと乙坂は苦笑した。好きで選んだ道だ。簡単に心を折られるわけにはいかない。来る日も来る日も試合は続いたが、乙坂はずるずると成績を落とすことなく踏み止まった。2022年に海外へ出てから新たな武器となった“足”で相手チームをかき回し、またバッティングは毎日の研鑽で速球にもコンタクトできるようになった。バットもNPB時代から使っていたしなりの出るモデルをやめ、強くインパクトできる堅い木の素材のものにした。とにかく大事なのは、始動を早くし、先に反応し、ボールを長く見ること。名付けて“熱湯あちあち打法”である。
「熱いモノに触れると思わず手を引っ込めちゃうじゃないですか。イメージとしてはあれですよ」
乙坂はそう言うと笑った。脊髄反射のごとく感覚的な部分で相手ピッチャーに反応するのだ。
「日本じゃ考えられないほどいろんな間合いのピッチャーがいるんで、自分がしたいバッティングを先にイメージしちゃうと、ひとりよがりのスイングになってしまうんです。だから人間関係もそうですけど、相手(ピッチャー)に合わせることが大事なんじゃないかって」
■ 重視した「調和」
一方的な“攻め”のマインドではなく、相手と“調和”して初めて最大の効果を生むことができると乙坂は感じていた。
「『空間を調和する』とでも言うんですかね。ひとりよがりになると、この空間がプツンって切れて、いい打球が飛ばない。逆に保つことができれば、強い打球が行く。極端なことを言えば、打席に入ってから重心やヘッドの位置、手がどうのと考えてしまうのも、ひとりよがり。じゃなくて、練習の段階でそれはもう全部解決しておく。そして感性だけを研ぎ澄まして打席に入ることが大事なんだって」
■ 筒香先輩との再会
疲弊をしながらも粘り強く過ごしていたシーズン中、思わぬ再会が乙坂に刺激を与えた。それは8月に同リーグのスタテンアイランド・フェリーホークスに加入した筒香嘉智の存在だ。横浜高校の2学年上の先輩であり、DeNAでは8年間ともにプレーし、公私にわたって世話になってきた掛けがいのない人物。時を経て、ともにMLBを目指し、米独立リーグで戦う日が来るとは夢にも思わなかった。
「いや、不思議ですよね。1年ぶりぐらいに再会したんですけど、まさかこの場とは。我ながら面白い野球人生を送っているなって」
どこか楽しそうな様子で乙坂は言った。
■ 常にアップデートされている筒香さん
「筒香さんが加入しての初戦がうちとの3連戦だったと思うんですけど、打席に入っている姿をセンターから見てなんだか感慨深かったですよね。その3連戦でホームラン2本打ってましたし、やっぱりすごいなって」
試合後は筒香のステイ先に招かれ、食事を一緒にしたという。
「あいかわらず野球の話ばっかりでしたね。本当野球が大好きで、四六時中考えているんだと思いますよ。だからバッティングがめちゃくちゃ進化していましたね。日本にいる時よりも動作に無駄がありませんでした。やっぱり少ない動きで出力を出せるのが究極だと思うし、レベルが高くなればなるほど動作が大きいと対応できない。筒香さんは、会うたびに言っていることが変わるんですよ。つまり常にアップデートされているということ。本当、いい方向に進化していると思いますね」
■ 打率リーグ4位もネックになった「パワー」「年齢」
かつて苦楽をともにした先輩に触発されるように、乙坂は9月16日の最終戦まで気持ちを切らすことなくシーズンを走り切った。成績は111試合に出場し、打率.330(リーグ4位)、123安打、2本塁打、48打点、42盗塁(リーグ2位)、OPS.848。加えて外野手部門のゴールドグラブ賞を受賞した。非常にいいスタッツだと思うのだが、乙坂の表情は浮かないものだった。事実、MLBの球団からは声が掛かっていなかった。
「手が届きそうで届かず、壁を突き破れなかったといった感じですね。自己分析すると長打力が足りなかったと思います。傾向を見ると最低ラインでOPS(出塁率+長打率)が.900を超えてこないとMLBは難しいのかなって。ましてや年齢的(30歳)にも、自分と同じような数字ならば若い選手を獲って育てるでしょうし、やはりメジャーでスタメンとして計算できるぐらいの成績を残さないと、僕の場合は厳しいんじゃないかなって」
■ 米独立リーグはまさにMLBの“ショーケース”
突きつけられた厳しい現実。ただ、自分はどういうプレーヤーなのかを確立することができた米独立リーグ挑戦だった。
「ATLLは、まさにMLBに向けた“ショーケース”なんです。ほとんどの選手が、どれだけ速いボールを投げられるか、どれだけ飛ばせるかをアピールしている。そんな中で僕のスタイルは、セーフティーなどの小技や盗塁といった相手の裏をかくプレーが多いので、そういう意味ではスバズバ決まったし、自由に表現することはできたのかなって。周りからも『トモ(乙坂)はユニークだし唯一無二のスタイルだ』って評価は受けましたが、ニーズに合う球団、合わない球団がはっきりしてくる。自分としては合う球団があればいいなと願っていましたが……。そういう意味で最後は、歯がゆさに打ちのめされたシーズンでしたね」
■ 自分のプレーを編集した動画を作成し、売り込み
うなずき、納得するように乙坂は言った。また球場でアピールするばかりではなく、自分のプレーを編集した動画を自ら作成し、「メジャー30球団に送っておいてください」と、代理人へ毎日のように連絡をするなど可能性を模索した。それでもMLBからの反応はなかった。
「ただ、知らない世界を知ることができたのは有意義だったし、大変なことも多かったけど、成長できた実感はありました。日本にいたら決してできない経験もして、野球選手としてはもちろん、人間としてもスケールアップできたのかなって。まだまだチャンスがあるのならば、どこへ行っても全力でプレーするだけです」
ヨークでの生活で、またひと回り肉体も精神もタフになった。だが、まだ夢の途上。乙坂は10月に入ると、昨年同様ベネズエラのウィンターリーグで戦うため機上の人となった。北米から南米をまたぐ、終わりなき旅は続く――。
■英訳
"If you don't move, the scenery won't change. Well, anyway, it's all about passion," said Tomo Otsuka, with a light tone but a serious expression contrasting his words.
Former outfielder for the Yokohama DeNA BayStars, Otsuka had played in the Mexican League, the Venezuelan Winter League, and the independent leagues in the past two seasons. His days of struggle in foreign countries, all for the dream of joining an MLB team.
"I was prepared for it not to be easy, and the obstacles are still many. But I have to face what I can do now without giving up."
■ First time facing a changeup in life
In the 2022 season, Otsuka played in Mexico and Venezuela, recording a combined 176 hits, 3 home runs, a batting average of .354, 41 RBIs, and 41 stolen bases in 128 games. His performance earned him a spot in the Atlantic League (ATLL), the highest-level independent league in the United States, known as a partner league supported by MLB. For players not in MLB-affiliated minor league teams, it's considered the frontline for grabbing a chance at the majors.
"I heard that many players from ATLL earn minor league contracts with MLB teams, so when I received an offer from York, I felt like I had no choice but to go."
■ Good start, but...
Despite a strong start with a batting average of .480, 7 RBIs, and an OPS of 1.159 in the first 6 games, things didn't stay that way for Otsuka.
"The conditions were worse than in Central and South America. Even though we received meal money, breakfast alone could cost around 3,000 yen due to high prices, and since we had to pay for hotels during away games, staying 4-5 times a month would exceed our monthly salary. So, I started cooking for myself. And then there's the travel. In Mexico or Venezuela, the bus ride would be at most 10 hours, but for example, traveling from York in Pennsylvania to South Carolina would take 14-15 hours by bus. And you have to change and get ready for the game right after arriving. Plus, the climate difference between Pennsylvania at 8°C and South Carolina at 32°C. You need to be physically and mentally tough; otherwise, the environment will wear you down. There were times when I lost about 10 kilograms while in America."
■ Fooling myself
The game schedule included doubleheaders within 13 days and stretches of 15 or even 21 games in a row by the end of the season. Otsuka thought he had experienced most things in Central and South America, but the harsh living conditions in the independent league inevitably took a toll on him.
"But everyone was in the same boat, so you had to crawl out of it. How did I keep my spirits up? Well, I guess I fooled myself. I kept telling myself, 'I'm totally fine, I can do this!'"
■ Hot water hitting method
Otsuka chuckled as he said this. It was a path he had chosen willingly. He couldn't afford to let himself be discouraged easily. Despite facing game after game, Otsuka managed to hold his ground without letting his performance slip. Since going abroad in 2022, his "speed" became a new weapon, disrupting opposing teams, and his batting improved to make contact with fastballs through daily practice. He also switched to a bat made of solid wood for a stronger impact. The key was to start early, react quickly, and keep an eye on the ball for longer. He called it the "hot water hitting method."
"When you touch something hot, you instinctively pull your hand back, right? It's like that."
Otsuka laughed. It was about instinctively reacting to the opposing pitcher in a sensory way.
"You have pitchers with various pitching styles that you couldn't imagine in Japan, so if you imagine the batting style you want to do beforehand, it becomes a selfish swing. So, it's important to adjust to the opponent (pitcher), not just in human relationships."
■ Emphasizing "harmony"
Otsuka felt that rather than a one-sided "attack" mindset, achieving maximum effectiveness required "harmony" with the opponent.
"It's like 'harmonizing the space.' When you're being selfish, the space breaks, and you don't hit good balls. On the other hand, if you can maintain it, strong hits will come. To put it in extreme terms, thinking about things like the center of gravity, head position, and hands when you step into the batter's box is selfish. Instead, you should have already solved all of that during practice. And it's important to sharpen your sensitivity and step into the batter's box."
■ Reunion with Senior Tsutsugo
During the exhausting season, Otsuka was stimulated by an unexpected reunion. It was with Katsuki Tsutsugo, who joined the Staten Island Ferry Hawks in the same league in August. Tsutsugo was two years senior to Otsuka at Yokohama High School and had played together for 8 years at DeNA, becoming an invaluable figure both personally and professionally. Over time, they both aimed for MLB and ended up fighting in the independent leagues, a dream neither had imagined.
"It's strange, isn't it? We met again after about a year, but never expected it to be in this situation. I must say, we've led interesting baseball lives."
Otsuka said with a somewhat amused expression.
■ Always updated Tsutsugo-san
"I think Tsutsugo-san's first game after joining was a three-game series against us, and it was quite moving to see him at bat from center field. He hit two home runs in that series, and it was impressive."
After the game, Otsuka was invited to Tsutsugo's stay and had a meal together.
"It was all about baseball as usual. I really think he loves baseball and thinks about it all the time. So, his batting had evolved tremendously. There were no wasted movements compared to when he was in Japan. The fewer movements you have while still producing power, the better, and as the level increases, you can't cope with big movements. Tsutsugo-san changes what he says every time we meet. In other words, he's always updated. He's really evolving in a good direction."
■ Despite batting average ranking 4th, "Power" and "Age" became hurdles
Despite his achievements, including a batting average of .330 (4th in the league), 123 hits, 2 home runs, 48 RBIs, and 42 stolen bases (2nd in the league), and receiving the Gold Glove Award for outfielders, Otsuka's expression remained unchanged. In reality, he hadn't received any offers from MLB teams.
"It feels like I was so close yet couldn't break through the wall. Looking back, I think I lacked power. Looking at the trend, I feel like MLB might be difficult without an OPS (on-base plus slugging percentage) of over .900 as a minimum. Plus, in terms of age (30 years old), if the numbers are similar to mine, they'd probably pick and nurture younger players. And unless you leave a performance that MLB teams can calculate you as a starter, it might be tough for me."
■ The American Independent League is truly MLB's "showcase"
Facing the harsh reality. However, the challenge of the American Independent League allowed me to establish what kind of player I am.
"The ATLL is truly a 'showcase' for MLB. Most players are appealing how fast they can pitch or how far they can hit. In that regard, my style involves a lot of subtle plays like stealing bases and hitting for safety, so in that sense, I was able to express myself freely. I received evaluations from others like, 'Tomo (Otsuka) is unique and one-of-a-kind.' But it becomes clear which teams I fit with and which ones I don't. Personally, I hoped to find a team that suited me... In that sense, it was a season that left me feeling frustrated in the end."
■ Creating and promoting videos of my own gameplay
Nodding in agreement, Otsuka said, "I tried to explore possibilities by not just showcasing myself on the field but also by creating videos edited with my own gameplay and contacting my agent almost every day, asking them to send them to all 30 MLB teams. Yet, there was no response from MLB."
"However, it was meaningful to be able to learn about an unknown world. Despite the many challenges, I felt a sense of growth. I had experiences that I could never have had in Japan, and I feel like I've scaled up not only as a baseball player but also as a person. If there are still chances ahead, I'll just continue to play with all my might wherever I go."
Living in York toughened me up both physically and mentally. But I'm still on the path towards my dream. As October arrived, I became a frequent traveler once again to play in the Venezuelan Winter League, just like last year. The endless journey spanning from North America to South America continues on.
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☘️ヤフコメ❗️ピックアップ☘️
因みに乙坂は、今季はメキシカンリーグに復帰し、レオネス・デ・ユカタンに所属してプレーをするとのことですので、メキシカンリーグ入りを目指してる安樂智大との日本人対決も実現してほしいです
✅ ともにベイスターズ出身の二人。
アメリカで懸命に藻掻いています。
いつの日か、二人でメジャーの舞台に立てることを願っております。
選手としては無いかもしれないけれど、もし万一、将来指導者として横浜球団に帰ってきてくれることがあったなら、とてつもないものをもたらしてくれそうな気がします。
がんばれ・・・
✅ この人は、DeNA退団の経緯も純粋に能力を見切られての戦力外通告じゃないからなぁ。
ただ、怪我の功名というか、メキシコ〜米独立Lという「修羅場」に身を置くことになって、結果的に能力面でも精神面でもNPBに居続けた場合より遥かに成長できたんだと思う。
あと何年やれるかは分からないけど、筒香先輩ともども、MLBから声がかかるといいね。
二人とも、将来指導者として戻ってきても結構な手腕を発揮するんではないか?