東洋経済ONLINE

日本が「国産ワクチン」開発できていない背景[2021.2.5]

日本が「国産ワクチン」開発できていない背景


【記事詳細】東洋経済ONLINE

⭐︎記事要約⭐︎

日本が「国産ワクチン」開発できていない背景
EUによる輸出規制で日本が困るという意味

自国でワクチン開発をできないことのリスクや、開発を促すためにどうしたらいいかを考える。
感染症危機管理を生業とする人々が、自らの身の危険を顧みず日々奮闘し、新型コロナウイルスという悪役に対して、4種の手段で決戦を挑もうとしている。アメリカのファイザー/ドイツのバイオンテック、アメリカのモデルナ、イギリスのアストラゼネカ、そして新型コロナワクチン国際共同購入枠組み(COVAXファシリティ)という4つのチャネルを通じて獲得するワクチンだ。
厚労省など関係者の尽力により、2月中旬から接種が開始されるが、これらの手段はすべて外国産日本企業による新型コロナワクチンの研究開発は遅れている。
日本はこうした脅威に対する武器を、自国で内製化できず、外国に頼らなければならない状況にある。パンデミック級の超ド級の感染症危機は約10年に1度の割合で発生しているが、それより規模は小さくとも、日本に何らかの脅威を及ぼす感染症危機は、2〜3年に1回の割合で発生しており、頻度が高い。それにも関わらず、感染症危機を引き起こす脅威に対抗する武器を自国でまかなえないという状況は、あまりに心許ない。
日本に対して脅威となりうる感染症はあまたあるが、特に強い脅威認識を持つべきなのは、新型インフルエンザと「Disease X※」の2つだ。
※Disease X:2018年にWHOが、感染症危機への危機管理医薬品の研究開発に関する世界戦略「R&D ブループリント」 の中で初めて使用した用語。
「現時点において人類に知られていない病原体であって、将来のある時点において人類に危害を及ぼし、国際的に蔓延する恐れのある感染症」と定義され、「来るべき感染症(Epidemic-in-waiting)」とも呼称される。新型コロナウイルスはこの典型例。

Disease Xが発生した場合には、それに特化した診断薬・治療薬・ワクチンの開発が必須となる。これら3つを合わせた感染症危機管理における武器を「危機管理医薬品」と呼ぶ。治療薬には、危機を発生させている感染症から回復した者の回復者血清(当該感染症に対する抗体を含有している)も含む。

現時点で未知の病原体が危機を引き起こした後でいざ研究開発を始めていたのでは、完成までに時間がかかってしまう。したがって、どのような病原体による感染症危機が発生しても対応可能な基盤技術の研究開発に対し、継続的に投資する必要がある

しかし、現時点で世の中に存在していない脅威を対象にする危機管理医薬品には、世界のどこにも市場が存在しない。エボラ出血熱のように現存する病原体であっても、大規模な需要がつねに存在しているわけではなく、そこに市場性がない脅威もある。

そうした医薬品の研究開発に私企業が投資することは合理的ではないため、市場メカニズムに任せていたのでは、危機管理医薬品の研究開発が行われることはない。
したがって、危機管理医薬品の研究開発は、政府が主導せねばならない。具体的には、危機管理医薬品のシーズを有する民間企業や学術機関に対して資金を提供し、研究開発を後押しする入り口論(プッシュ型インセンティブ)、および最終的に開発に成功し、製造されたものを政府が備蓄という形で買い取るという出口論(プル型インセンティブ)に立った方策が必要となる。

アメリカは、感染症危機管理が国家安全保障にとって死活的に重要であるという考えに基づき、危機管理医薬品の研究開発に対し、継続的に投資してきた。アメリカでの研究開発投資をリードするのは、保健福祉省生物医学先端研究開発局(BARDA※)である。アメリカはBARDAを内に擁していたことで、新型コロナ危機ではいち早くワクチンの開発に漕ぎ着けた。

※BARDA:「21世紀の公衆衛生上の脅威から命を救い、アメリカ人を守る」を政策コンセプトとして掲げるBARDAは、民間企業や学術機関と連携し、感染症危機から国民を守るワクチンや医薬品開発を行う機関。政府出資のベンチャーキャピタル。

日本には、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンドという、マラリア・結核・顧みられない熱帯病に対する治療薬・ワクチン・診断薬の開発を推進する国際的な官民ファンドが存在する。
「開発途上国の人々が感染症による苦難を乗り越え、先進国と同様に繁栄と長寿社会を享受できる世界を目指す」ことを掲げ、「途上国における感染症や貧困へのグローバルな取り組みに対して、日本のイノベーション、投資、リーダーシップを用いた国際的なパートナーシップを推進」するために事業を行っている。
GHITファンドには、外務省や厚生労働省からも資金が拠出されている。原資は税金であることに鑑みると、日本国民にとっても直接的な利益のある感染症危機管理に関する危機管理医薬品の研究開発に投資ポートフォリオを変更すべきだ。

感染症危機は近いうちにまたやってくる。将来の感染症危機に備えるために、日本もBARDAのような機関を創設することが望まれる。その際、GHITファンドの改変の改変は、1つの有力な選択肢となり得るだろう

  ◇   ◇   ◇
★Wikipedia【GHITファンド】

-東洋経済ONLINE

© 2024 News HACK By Powered by AFFINGER5