Going toを「ガナ」と発音すると失礼?
✍️記事要約
■ Gonnaはオバマ元大統領のお墨付き?
まず、「フォーマルな場面で使うのは失礼」なのだろうか? 一例として、オバマ元大統領やバイデン大統領、Appleの共同創業者スティーブ・ジョブズも、フォーマルな機会にgonnaを多用している。というかgoing toは、ほとんどがgonnaと発音されている。
具体例として、オバマ元大統領の退任演説からgonnaの例をいくつか抜き出してみる。50分ほどのスピーチで、going toを使っているのは6回。ホワイトハウスの公式トランスクリプトではgoing toと表記されているが、実際には全てをgonnaと発音している。
And so, we're gonna have to forge a new social compact to guarantee all our kids the education they need.
ですから、すべての子供たちに彼らが必要な教育を保証するために、新しい社会的合意を作りあげなければなりません。
So, if we're gonna be serious about race going forward…
ですから、もし私たちが今後、人種について真剣に考えるのであれば…
…we're gonna destroy the fundamental character of America.
…アメリカの根本的な性格を破壊することになります。
このように、内容も語彙(ごい)もお堅いスピーチだが、普通にgonnaを使っている。
「フォーマルな場面で使うのは失礼」と考えるのは、勘違いであることが分かるだろう。
しかし、だからといって安心してはいけない。「Gonnaと発音したほうが、ネイティブっぽく聞こえてかっこいい!」と考えて安易に使うのも問題なのである。
その理由をお伝えする前に、英語ネイティブたち、特にアメリカ人がgonnaをどう考えているかチェックしておこう。
■ ネイティブのルールはただ一つ
実は、アメリカ人の間でもgonnaの使い方に関して明確な基準があるわけではない。
歴史を振り返ると、gonnaは1950年代以降、wannaとともにアメリカのポピュラーソングで頻繁に使われるようになり、一気に普及したとされる。当初は、「教養のない発音」と見なされていたそうだ。
だが、言葉の使い方は時代とともに変化する。昔のハリウッド映画ではgonnaよりgoing toの使用頻度が高いこともあったが、今はgonnaが圧倒的に優勢である。
しかし、ビジネスシーンでのgonnaに関して誰もが同意する明確な指針は、「文書では、gonnaと書くスペリングを使うな!」の一点のみだ。
身もふたもない結論かもしれないが、gonnaに関してそこまで深く考えていないのだ。
筆者の経験を元に判断すると、そもそもたいていのアメリカ人は、自分がどのようにgonnaとgoing toを使い分けているか、自覚していない。面と向かって質問されれば、「仕事中にはgonnaとはあまり言わないかもなあ…」などと答える人でも、実際は使いまくっていたりする。
冒頭で日本語の音声変化の見本として、「~しなければなりません」が、「~しなきゃなりません」になる例を挙げたが、あなただってこの二つを職場でどう使いわけているか、明確に自覚していないのではないだろうか? それと同じことである。
社内チャットなどでは普通にgonnaが使われているし、上司と話す時に使うかどうかも、その場の状況や上司の性格次第でなんとなく使い分けているようだ。
自分の発する一語一語に注意を払うような状況、例えば重要な交渉や役員会議でプレゼンをする時は、ゆっくりめにgoing toと発音する人が多くなると考えられる。
■ 「ネイティブっぽさ」のわな
それでは、「Gonnaと発音したほうが、ネイティブっぽく聞こえてよい」と考えるのが、なぜ勘違いなのか?
最大の理由は、gonnaを含む文頭だけは「ネイティブっぽく」言えたとしても、その他の部分がネイティブっぽくないのであれば、バランスに欠けた非常に奇妙な話し方になるからだ。
「ネイティブっぽく」話すことにこだわるなら、発音やリズム感、単語や表現の選択はもとより、発話速度もネイティブに近づける必要がある。Gonnaやwannaを多用した文頭だけ調子よく話せても、すぐにたどたどしく言葉を探るようでは逆効果だ。ビジネスパーソンとしての総合的な印象が、非常に残念なものになる。
むしろ、日本語なまりであることを気にせずに、堂々とした態度で、ゆっくり慎重に話すほうが、はるかに印象が良いだろう。
さらにもう一つ理由を挙げると、どのような言葉にせよ使用頻度があまりに多いと聞き苦しくなるものだ。
先ほどのオバマ元大統領のスピーチを振り返ってみよう。彼はスピーチの名手なので、さまざまな構文パターンを取り混ぜて話すことも事実。だが、それを差し引いても、50分の中でgoing toを使ったのはたったの6回である。
苦労して書いた原稿を丸覚えすれば、プレゼンテーションくらいは出来るレベルの人は多い。そういう人が、そこだけ妙に「ネイティブっぽく」聞こえるgonna連発のプレゼンをすると、聴衆は妙に落ち着かなくなるものだ。肝心なプレゼンのメッセージに集中できない人も出てくるだろう。
「ネイティブっぽく見せたい」「こなれた英語を話したい」「英語が板についていると思われたい」――。そうした願望も分かるが、ビジネスパーソンならば「伝えたい内容をなるべく的確に伝えられる」レベルを目指すほうが先だ。
それがどのようなレベルを指すのか、下記が重要なポイントになる。ぜひ参考にしてほしい。
●業務で役立つ文のパターンが十分に蓄積され、ほとんど無意識にとっさに口にできる。
●十分に伝わるレベルの発音が身に付いている。
●業務に必要な語彙やチャンクを蓄え続けて、実際に使っている。
●文のパターンやチャンクを組み合わせて応用できる。
●黙って考え込んでしまうことなく、次々と文をつなげてゆっくりでも話し続けられる。
※「チャンク」とは、3~5語程度からなる意味のカタマリのこと。ネイティブはチャンクを連ねる感覚で話す。
そして、このレベルに達するまでにはgonnaではなくgoing toを使うことをお勧めする。
いつもgoing toと発音するあなたは、多少お堅く聞こえることもあるかもしれない。だが、伝えるべき内容が伴っているのであれば、非英語ネイティブのそうした話し方は、礼儀正しくきびきびした雰囲気を出すので好感を抱かれるものだ。
Gonnaのような音声変化は、「よし、使ってやるぞ」と思って使うものではない。地道な努力と訓練を続けていけば、ある日突然、自分がgonnaを混ぜて話していることに気づくかもしれない。その頃には、あなたの英語には「こなれ感」や「板についている感」が、すでに備わっているはずだ。
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